話すことに葛藤はあったけれど、伝えるべき使命がある

―― 不妊治療というのは、すごくプライベートな話ですよね。あまり軽々しく他人に話すようなことではありません。ましてやお二人は有名人で、色々な人から見られているわけですが、なぜこのテーマを話そうと思われたのでしょうか。

魔裟斗 これは、心の使命だったんだと思っています。人前に出る仕事だからこそ多くの人に知ってもらえるわけだし、同じことをできる人はそんなにいないはず。僕たちのケースは、たまたま(2度目の転院をしたクリニックの)院長に巡り合ったということも含めて、色々なことがラッキーだった。だからこそ、今こうして不妊治療の経験を語ることができる。心にはそれができるわけだから、であればやるべきじゃないですか。

―― 男性である魔裟斗さんが発信することも、同じくらい意味のあることだと思います。男性の意識が変わらないと、不妊治療はなかなかうまくいきません。女性だけの意識を変えればいいということではないですよね。

魔裟斗 そうですね。僕にとっては、院長が「僕がなんとかしてあげる」と言ってくれたこと、その約束を守ってくれたことに対する恩返しでもありますね。

矢沢 最初は、大きな病院で、先生が言いたいことを言ったら終わってしまうというような、冷たいイメージを持っていたんですけど、いざ治療を始めてみたら、そんなことは全然なくて。気になることは、聞けばちゃんと話を聞いてくれましたし、看護師さんを通して分かるまで教えるようケアしてくれました。クリニックには、そういう話をするための部屋もあるんですよ。

―― 素晴らしいお医者様だったんですね。

矢沢 とにかく、「君をお母さんにさせてあげたい」という気持ちがすごく強い方でした。手術のときも「痛くないよ」と言っておなかを触ってくれたんですけど、その手がとても温かくて。そこから院長の人間としての温かみが伝わってくるような気がしました。

魔裟斗 院長はもう亡くなられてしまったんですが、心が通院している当時ももうご病気でした。そんな体調でも、心が通院するときだけは病院に来てくれたんです。「なんとかしてあげるから」という約束を果たさなきゃという一心だったみたいです。

矢沢 夫は院長への恩返しで経験したことを話していると言っていますが、私だけが話していてもすべての人に理解してもらえるわけではありません。夫だからこそ伝えられることもあると思いますし、やっぱり夫にとっても、この経験を話すことは使命なんじゃないかと思っています。

―― 不妊治療について、世の男性にも理解してもらいたい。そのためには、男性に対して影響力と発信力がある魔裟斗さんからの言葉も大切ですね。

矢沢 今でも、正直に言えばプライベートについて赤裸々に話すことは気が進まないですし、できれば言いたくないこと、知られたくないことだと思っています。不妊に関しては私の体に原因があったので、なんの問題もない夫のことまで公にする必要はなかったのではと思うこともあります。でも、今までお話ししたことは、私がそういう体だからこそ経験したことで、夫はその私と結婚したからこそ不妊治療を経験した。そして子どもを授かった今、夫にもその経験を伝えてもらいたい。それが、私たちにできることで、やるべきことなんだろうと思っています。