◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス
◆秋山茂樹(あきやま しげき) 47歳/銀行員
◆秋山 希(あきやま のぞみ) 12歳/私立女子中学に合格
秀介の帰宅は相変わらず遅かった。家のことはほとんどすべて多香実が担っている。風呂掃除に関しても、もういちいち言うのがストレスなので、結局多香実が洗ってしまっている。秀介がやっているのは、朝の保育園への送りだけだ。
―遅くなるから飯いらない。
というラインが秀介から届き、そもそもパパの分は用意してないわよ、と心のなかでつぶやきながら、杏莉と颯太と夕飯を食べていると、宅配便が届いた。
差出人の名前を見ると、千恵だった。開けてみると、多肉植物のかわいらしいセットが入っている。千恵の職場で育てて、販売しているものだ。
さっそくお礼の電話を入れた。
「杏莉ちゃんと颯太くんの進級のお祝いにね」
「すっごくかわいいわ。杏莉と颯太も喜んでるよー。なんていうの、これ?」
「レモータとレインドロップ、ブロンズ姫とスマロ、セダム、ハオルチア、だっけなあ」
「……うっ、まったくわからないけど、ありがとう。大事に育てるね」
「うん」
「そうそう、例のさしすせそ。ママ友に教えたら感心してたよ」
「そうでしょう。ぜひ使ってね」
天真爛漫な千恵に、美帆のさしすせそ、は言えないなあと多香実は思った。もちろん自分のさしすせそ、も言う必要はないだろう。
「多香ちゃん、また遊びに来てね。希が、杏莉ちゃんと颯太くんに会いたがってるよ」
「どうもありがとう。また寄らせてもらうね。希ちゃんにもよろしく伝えてね」
じゃあ、またね、と言い合って、電話を切った。
このとき多香実は唐突に、千恵は結婚に成功したんだと思った。それは羨望ではなく、千恵という人間は、自分とはまったく違うのだという気付きだった。
夫である、秀介と茂樹の性質はもちろんだが、自分たち妻の感情の置き所もそうだ。自分の夫がたとえば茂樹だったとしても、さしすせそ、は簡単に使えないだろうと思った。反対に千恵の夫が秀介だったとしたら、千恵は上手にさしすせそを使い、思い煩うことなく生活を送れるのかもしれないと。
・「やめてって言ってるでしょっ!」
・「せっかくその気になってやったのに」
・断られて以来、多香実は考えを変えた
・触れたい衝動など、まるでない