5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。仕事も子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育てをほぼ一人でやらなければならない“ワンオペ状態”だ。 ある日、同僚でワーママ友達の真美子とランチをした多香実。つい夫の秀介への怒りや憎しみがこみあげて涙ぐみ、「離婚」の二文字が頭をよぎった。暴力や浮気、借金がなくても離婚をしてもいいものだろうか・・・。
『さしすせその女たち』  今回の主な登場人物
 ◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/ デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
 ◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
 ◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
 ◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

 ◆真美子(まみこ) 39歳/「サンクルーリ」総務部 多香実とは同期で仲が良い。中1と小5の男児を育てるワーキングママ。
 ◆峰岸ゆりか(みねぎし ゆりか) 29歳/「サンクルーリ」正社員。ソーシャルマーケティング部 クライアントオペレーション室。妊娠6カ月
 ◆竹下彩名(たけした あやな) 29歳/「サンクルーリ」アルバイト。ソーシャルマーケティング部 クライアントオペレーション室。独身で仕事ができるムードメーカー。

 いつもより一時間早く退社し、病児保育所に颯太を迎えに行った。颯太は機嫌よく友達と遊んでいた。熱も上がらずに食欲もあったとのことで安心した。とはいえ、颯太を電車に乗せることはできず、杏莉の保育園の最寄り駅まではタクシーを使った。駐輪場で自転車を拾い、颯太を乗せて保育園に向かう。

 杏莉は元気だった。颯太のインフルエンザはうつっていないようだが、まだ油断はできない。帰宅してすぐに食事を済ませ、風呂に入れ、一分でも早くと布団に促す。寝る場所はまだ別々のほうがいいだろう。杏莉にがんばってもらい、一人で寝室にいるよう頼んで、先に颯太を寝かしつけた。颯太の寝息が聞こえたところで、いそいで寝室に行くと杏莉はすでに眠っていた。

「ありがとう、杏莉。颯太のインフルエンザがすっかり治ったらたくさん遊ぼうね」

 寝ている杏莉に、多香実は小さく声をかけた。

 洗濯物を干し終わったところで、秀介が帰ってきた。

「ご飯出してよ」

 食べてきたのではなかったのか。今週はずっと接待だと言っていたのにと思いながら、残り物を食卓に出す。そしてふと、去年のことを思い出した。

<次のページからの内容>
・「おれの飯は?」
・「送り迎えは分担するって約束だったよね」
・ゆりかが妊娠高血圧症で入院!
・「室長、ちょっといいですか」