5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。 一見、仕事も充実し、子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育ても家事もほぼ自分でやらなければならない“ワンオペ状態”だ。 息子の颯太がインフルエンザにかかってしまったため、今週は病児保育の綱渡り。もし満員で預けられなかった場合は、夫の秀介と交代で会社を休まなければならない。夫に看病をお願いするもむなしく、秀介は「休めるわけないよな」の一言。まったく力にならない。一緒に働き、一緒に子育てをしているという認識がない夫に、怒りと悔しさがこみ上げる。仕事は繁忙期で大変だというのに…!
『さしすせその女たち』  今回の主な登場人物
 ◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/ デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
 ◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
 ◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
 ◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

 ◆真美子(まみこ) 39歳/「サンクルーリ」総務部 多香実とは同期で仲が良い。中1と小5の男児を育てるワーキングママ。

 プロジェクトチーム内は、殺気立つほどの慌ただしさだった。今月末までの案件が重なっている。室長である多香実は、すべての流れについて把握していなければならないし、自分が直接担当している案件もある。自宅でかなり進めてきたつもりだが、職場に身を置かないとわからない部分もたくさんあり、てんやわんやの忙しさだった。

 今日もゆりかは休みだった。この時期一人抜ける穴は大きい。ゆりかの場合、自宅での仕事もままならないようで、ゆりかの担当部分はまるまる他の社員に分担するしかなかった。

 多香実は、彩名に目をやる。書類に目をやりながら、企画書を打ち込んでいる。今、彩名が担当しているのは10代を中心に人気のあるアパレルブランドだ。これまでの広告とはまったく違ったアプローチにしたいという依頼で、若い世代をいかにして惹きつけられるかが要となる。

 彩名は嗅覚がすぐれていて、流行の一歩先を見通せる力がある。頭も切れるし、クライアントとのやりとりもうまい。今はアルバイトだが本人にその気があれば、人事にかけ合って正社員になれるよう計らいたいと、多香実は考えている。

 どうか彩名がゆりかの休みについて、チーム内の誰かを扇動させるようなことが今後一切ないようにと、ひそかに祈る。

 なんとなく彩名から目が離せなくなって、見るともなく見ていると、ふと目が合った。

<次のページからの内容>
・「話を聞いてるだけでめまいがしてきたわ」
・基本的に家事をするのが好きな夫
・ 「離婚かあ……」
・決定的な理由がなければ、離婚してはだめなのか