保育園の年長と年中の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。仕事も子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育てをほぼ一人でやらなければならない“ワンオペ状態”だ。

円満夫婦のはずだった親友の千恵が、突然、離婚に踏み切った。今はパートで働きながら、中1の娘と2LDKのマンションで2人暮らしをしている。多香実はつい自分に当てはめて考える。夫の秀介と今後、生活費13万円だけをあてにして結婚生活が続けられるのだろうか。それとも千恵のように思い切って自立して、幼い子2人を養育し続けられるのだろうか・・・。
『さしすせその女たち』  今回の主な登場人物
 ◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部 クライアントオペレーション室 室長
 ◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
 ◆米澤杏莉(よねざわ あんり) みゆき保育園年長クラス
 ◆米澤颯太(よねざわ そうた) みゆき保育園年中クラス

 ◆峰岸ゆりか(みねぎし ゆりか) 29歳/「サンクルーリ」正社員。ソーシャルマーケティング部 クライアントオペレーション室。妊娠6カ月で会社を辞めた。
 ◆竹下彩名(たけした あやな) 29歳/「サンクルーリ」アルバイト。ソーシャルマーケティング部 クライアントオペレーション室。独身で仕事ができるムードメーカー。峰岸ゆりかと同じ部署で働いていた。
 ◆秋山千恵(あきやま ちえ) 39歳/多肉植物の栽培・販売店パート勤務
 ◆美帆(みほ) 41歳/去年離婚したシングルマザー。エレクトロニクス関連会社の派遣社員。家庭教師のバイトも掛け持ちしている。

 六月に入った。新しく入ったアルバイトの2人は早々に業務に慣れ、着実に戦力になっている。彩名が携わったアパレル関係の評判はとてもよく、彩名指定での仕事が来るようになった。

 多香実は彩名を呼び出して、正社員への登用について打診してみた。彩名が社員になってくれたら、とても心強い。

「ありがとうございます。でもわたし、今のままでいいです」

 彩名の返答に、多香実は驚いた。まさか断られるとは思っていなかった。

「理由を聞いてもいい?」

「とてもうれしくて光栄なお誘いなんですけど、うーん、やっぱり社員さんは大変だなと思ったんです。それに、サンクルーリは時給もいいし」

 確かにうちの会社はアルバイトの時給がいい。保障はないが、残業代を含めれば正社員の給与に届く月もあるだろう。

「わたし、今の仕事が大好きでやりがいがあるんですけど、結婚してからも続けられるかどうかわからなくて」

「結婚する予定があるの?」

「はい、来年ぐらいにはと考えています」

「そうなの。それはおめでたいわ」

「あはは。なーんて、そのときになったら、どうなるかわからないですけどね」

 彩名が明るく笑う。

「わたし、子どもが欲しいんです。子どもが大好きなんです」

 意外だった。その逆なのでは、と勝手に思っていた。

<次のページからの内容>
・ 多香実は手本になりたいと思ってきたが
・ 「美帆ちゃん、なんだかきれいになったみたい」
・ 働き方はいくらでもある、人それぞれの道がある
・ 「いざとなったら、離婚届一枚をだせばいい」
・ 新たな「さしすせそ」は、so happy!

次ページから読める内容

  • 多香実は手本になりたいと思ってきたが
  • 「美帆ちゃん、なんだかきれいになったみたい」
  • 働き方はいくらでもある、人それぞれの道がある
  • 「いざとなったら、離婚届一枚をだせばいいだけの話だ」
  • 新たな「さしすせそ」は、so happy!

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椰月美智子
椰月美智子 やづき・みちこ。1970年生まれ。小説家。02年、『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。07年『しずかな日々』で第45回野間児童文芸賞、第23回坪田譲治文学賞をダブル受賞。その他の著書に、『るり姉』『恋愛小説』『その青の、その先の、』『14歳の水平線』『かっこうの親 もずの子ども』『フリン』『伶也と』『坂道の向こう』『メイクアップ デイズ』『明日の食卓』『消えてなくなっても』など多数。幼年童話『チョコちゃん』『チョコちゃんときゅうしょく』もある。小学5年生と3年生の男児の母。

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