◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス
◆秋山茂樹(あきやま しげき) 47歳/銀行員
◆秋山希(あきやま のぞみ) 12歳/私立女子中学に合格
連休明けからしばらく経ったとき、6月の人事発表の内示があった。期待していたソーシャルマーケティング部長には、同い年の男性同僚が任命された。多香実の一年あとの中途入社組だが、とても頭が切れ、部下からの信頼も厚く、売り上げにも貢献している。当然と言えば当然の人事だった。
それでも多香実は悔しく、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになった。業績としては、多香実のチームとさほどの開きはなかった。だとしたら、他にどんな昇進の理由があるのだろうと、つい考えてしまう。女だからだろうか。子どもがいるからだろうか。子どもの用事で早く退社したり、休んだりするからだろうか。
いや、違う。そんなことではないだろう。単純に彼よりも能力が劣っていたのだ。ゆりかのフォローもできずに退職させてしまい、彩名の気持ちも汲みとってあげられなかった。小さな失敗もあったし、クライアントとの対応のまずさもいくつかあった。
子どものせいにしてはいけないのだ。子どものせいにした時点で、自分という人間の価値は落ちる。子どもを生み育てることは、自分が今こうして生きていることと同じことだ。余分な荷物ではなく、すでに自分に内包されているものなのだ。昇進を逃したことは誰のせいでもない。すべては自分の行いだ。
その日の夜、千恵からLINEが入った。
―離婚することになりました。
と、それだけ書いてある。
・ 「離婚って? 冗談でしょ」
・「わたしのことが許せなかったのよ」
・「お友達のパパを、好きになってしまった」