5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。仕事も子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育てをほぼ一人でやらなければならない“ワンオペ状態”だ。

5月の連休も終わったある日、久しぶりにママ友の秋山千恵から連絡が来た。「――離婚することになりました」。千恵は、あの「魔法の言葉、さしすせそ」を教えてくれた、おしどり夫婦のはずなのに…。胸騒ぎがする多香実は千恵に会いにいくことになった。
『さしすせその女たち』  今回の主な登場人物
 ◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/ デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
 ◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
 ◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
 ◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

 ◆秋山千恵(あきやま ちえ) 39歳/多肉植物の栽培・販売店パート勤務
 ◆秋山茂樹(あきやま しげき) 47歳/銀行員
 ◆秋山希(あきやま のぞみ) 12歳/私立女子中学に合格

 連休明けからしばらく経ったとき、6月の人事発表の内示があった。期待していたソーシャルマーケティング部長には、同い年の男性同僚が任命された。多香実の一年あとの中途入社組だが、とても頭が切れ、部下からの信頼も厚く、売り上げにも貢献している。当然と言えば当然の人事だった。

 それでも多香実は悔しく、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになった。業績としては、多香実のチームとさほどの開きはなかった。だとしたら、他にどんな昇進の理由があるのだろうと、つい考えてしまう。女だからだろうか。子どもがいるからだろうか。子どもの用事で早く退社したり、休んだりするからだろうか。

 いや、違う。そんなことではないだろう。単純に彼よりも能力が劣っていたのだ。ゆりかのフォローもできずに退職させてしまい、彩名の気持ちも汲みとってあげられなかった。小さな失敗もあったし、クライアントとの対応のまずさもいくつかあった。

 子どものせいにしてはいけないのだ。子どものせいにした時点で、自分という人間の価値は落ちる。子どもを生み育てることは、自分が今こうして生きていることと同じことだ。余分な荷物ではなく、すでに自分に内包されているものなのだ。昇進を逃したことは誰のせいでもない。すべては自分の行いだ。

 その日の夜、千恵からLINEが入った。

―離婚することになりました。

 と、それだけ書いてある。

<次のページからの内容>
・ イクメンなんて、実在するのか訝しんでしまう
・ 「離婚って? 冗談でしょ」
・「わたしのことが許せなかったのよ」
・「お友達のパパを、好きになってしまった」

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  • 「離婚って? 冗談でしょ」
  • お友達のパパを、好きになってしまった

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