5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。仕事も子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育てをほぼ一人でやらなければならない“ワンオペ状態”だ。

世の中はゴールデンウィーク。多香実は松戸の実家に家族で帰省するが、秀介は付いて来ず、ウキウキしている。妻子の留守中に彼女とでも会うつもりだろうか。実家では相変わらずお茶ひとつ淹れられない父と、そんな夫に「ばあさん」と呼ばれて平気な専業主婦の母に、嫌気がさす多香実だった。
『さしすせその女たち』  今回の主な登場人物
 ◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/ デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
 ◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
 ◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
 ◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

 連休はカレンダー通りで、中2日出社したあとは5連休だった。1日目に家族4人で、都心にある遊園地に行くことにし、そのあとの3日は松戸にある多香実の実家に行くことになった。

 秀介も松戸に誘ってみたが、なんのかのと理由をつけて行きたがらないので、多香実も早々にあきらめた。多香実としては、そのほうが気が楽だったのでよかったが、実家の両親がなぜ秀介を連れて来ないのかとうるさく言うので、事前に、秀介は仕事があってどうしても行かれないと伝えておいた。

 3日間、多香実と子どもたちが留守になるのがうれしいのか、秀介は、遊園地でこれまで見たこともないような働きぶりだった。普段だったら、子どもたちがトイレ、と言っても、絶対に自分からは動こうとしなかったが、今回は率先して行動していた。乗り物に並ぶこともいとわず、子どもたちと遊びながら列に並んだ。いつもの秀介だったら、子どもたちがいくら乗りたいと言っても、並んでいる人を見ただけでスルーしていたはずだ。

 これが浮気の副産物であるのなら、浮気もいいかもしれないと多香実は思ったほどだ。

 翌日は、秀介が松戸の実家まで車で送ってくれた。めずらしいこともあるものだと思ったが、荷物が多かったので助かった。両親に文句を言われるのが面倒だったので、少しあがってお茶だけでも飲んで行ってと言うと、秀介は機嫌よく引き受けた。

<次のページからの内容>
・「お目当ての彼女とたのしく過ごせば」
・お茶ひとつ淹れられない父の老後
・母のことを「ばあさん」と呼ぶ父
・「はあーっ、お母さん、よくやってるよね」
・「熟年離婚とか考えたことないの?」