女性のいる場所には、課題解決のノウハウが集積している

 何しろ女性は悩んできた年数が長いから、両立のためのノウハウや困り事の実例が豊富だ。男性たちに道を示すだけでなく、悩める男性同士をつなぐためにも、女性たちがリードしてボトムアップの機運を作ることが重要ではないかと思う。

 力のある男性が物事を決定して、それに全員が従うようになっている社会では、もっとも弱い立場の女性に問題が集中する。異質な弱者、しかも性的欲望の対象となる存在は、対等なメンバーとしては認定されない。女性に限らず、システムに適応できずにこぼれ落ちた存在は排除され、組織はより効率的に機能するようにメンバーに同調を強いる。

 ワークライフバランスでもハラスメントでも、排除や暴力の連鎖の果てから上がった声は、初めは「女性の問題」として注目されるけど、それは決して女性「だけ」の問題ではなく、世の中に遍在する歪みが最初に先鋭化する現場が女性の置かれている場所であることの表れだろう。女性たちは社会の周縁で、誰よりも早く、誰よりも長く苦しんできた。女性のいる場所は、課題解決の最先端の現場であり、膨大な知見と傾聴されるべき物語が集積したアーカイブでもある。そこに彼らを招き入れるのだ。ようこそメーン、ユーも語っちゃいなよ!と。

 それを日本のwebメディアで先頭切ってやったのが日経DUALであった。働くママのための、ではなく働く夫婦のための読み物。立ち上げの編集長である羽生祥子さんは共働き共育て経験だけでなく、パートナーの夢を応援するために幼子を抱えて数年間一人で家計を支えた人でもある。ちょうど創刊直前のころに私は夫が仕事を辞めたので片働きになり、ならいっそと渡豪を考えていた。誰にも言えない胸の内の煩悶を、そのとき取材をしてくれた羽生さんの話を聞いて思わず打ち明けてしまったのだ。

 悩み事は、同じ経験をしている人に出会うまでは、なかなか言葉にできないものだ。少数派の悩みであればあるほど口にしづらい。今や共働きは当たり前になったが、女性が男性を養うことはまだメジャーではない。だから私の悩みは孤独であった。孤独な夜にいきなり隕石落下レベルの爆明かりで私を照らしたのが、羽生さんの波乱万丈の人生語りであったのだ。