私も悔しくて涙が出た

 もしかしたら、親が「これは良いものだよ」と伝える時に、子どもにより強く刷り込まれるのは「ああはなってほしくない」という語られない本音のほうなのかも。親が自分の本音とどこまで向き合っているか、それとどのように折り合いをつけているのかが肝心なのだろうと思います。

 私は、この小説に出てくる東大生とその親たちが染まっている空気に見覚えがあります。かつての自分だったら、被害に遭った女子大生をバカにしたかもしれない。と同時に、彼女は私だとも思いました。過去のいろいろな場面を思い出して、あの時自分に向けられていたのはまさしく彼女が浴びたのと同じまなざしだったのだと気づき、悔しくて涙が出ました。

 裸にされなくたって、人としてないがしろにされることはいくらでもあります。こんなことで傷つく自分が弱いのだとしまいこんできた悔しさに、姫野さんは手をのべて「怒っていい」と言ってくれました。怒っていい。あなたは人間だから。誰もが等しく、尊厳ある命を生きているのだから。

 差別する傲慢さも、される痛みも、私の本音なのです。

 読みながら引き裂かれる自分に、しんどい思いをすることもあるかもしれないけれど、秋の夜長に夫婦で感想を述べ合うのもいいかもしれません。