お化けは今、どうしているのか

 で、しばらくは四谷怪談のような修羅場となったわけですが、呪いに呪っているうちに、だんだん私も疲れてきました。呪いは、相手に通じてこそかいがあるというもの。伊右衛門よりもなお悪いことに、夫には自分が過去にしたことの意味が理解できなかったのです。だからなんで恨まれているのかも、本質的なところは全然分からない。ただただおまじないのように、それらしい反省の言葉を陳腐に繰り返すだけ。あげ句、読みかじりの村上春樹よろしく「うまく言えないんだ」などと傷ついた顔で言うものだから、お化けもドン引きでした。

 息子たちももう十代だし、かつてのように毎日が育児緊急事態というわけでもありません。井戸に蓋をするお金の重しもない今となっては、出てきてしまったお化けはどうしたらいいのでしょう。

 で、どうしているかというと、一緒に茶の間に座っています。4人家族なんですが、私はいつもお化け連れなので、4人と透けてるもう一人がデフォルトみたいになってきました。息子たちはお化けモードの私と平常運転の私の判別ができるようになり、時には「お化けになってるよ」と教えてくれるようになりました。するとお化けは黙って茶などすすり出し、私は日常に戻るのです。

 今は、心の底の空っぽの井戸にスウスウ風が入って落ち着きません。いつか闇の底からキラキラと新たな水が湧いてくるのでしょうか。ともあれ、子どもたちが自立するまでは、井戸のぞきなんてしている暇はありません。目の前に具体的な目標さえあれば、人はお化けと平和的に共存できるみたい。むしろお化けよりも怖いのは、どこまでも透明な夫という存在…。どうでしょう、お楽しみいただけたでしょうか。本当にあった怖い話。