「今から僕、そちらに取りに行くんで」

 と言ったら、いいから、と無愛想な顔でこちらに投げてくれた。

 「親切だけど、なんか怖い人だったね」

 と私が言うと

 「きっと、子どもがやっと寝たところかなんかだったんじゃない?」

 と長男。おお、いいぞ、さすが保育園とシッター育ちのナイスな洞察力

 迂闊にもそんなことまで想像できなかった私は、あんな怖いシッターさんに預けられた子どもが心配だ、なんて思っていたのだけど、言われてみれば自分だってちっちゃな子どもがようやく寝たところで隣家から「すみませーん」とか呼ばれたら軽く殺意すら覚えただろうと思う。悪いことしちゃったな……と反省して、長男の成長をしみじみ感じたのだった。

母が帰国して喜んでくれる息子、私はといえば…

 ところが、そのあと夕食ついでに行ったIKEAでは長男も次男もすっかりはしゃいで、ショールームではすぐに姿が見えなくなり電話で呼び出さねばならず、長男はカフェテリアの会計待ちの最中にグラスを落として割り、倉庫の中でカートに弟を乗せて押していたところをおじさんに叱られ、次男はイス売り場をキャスター付きのイスに座って移動しまくり、駐車場でカートを片付けるついでに暴走して私にこっぴどく叱られ、挙句「ママ、今日は楽しかった?」ときくので「みんながバラバラなことするからちょっと疲れた」と言ったら「ごめんね」としょげていた。

 2人とも、私が帰ってきたのが嬉しかったのだ。3週間ぶりに母親が帰ってきた翌日、家族で出かけた大好きなIKEA。喜んで犬のように動き回ってしまった息子たちに、私はちょっとイライラしてしまった。

 思えば照れ屋の次男がイス売り場で私の横に座って「ママが帰ってくると、嬉しいな」と言ってくれたり、長男が私の探していたワゴンを見つけ出していち早くタグを写真に撮ってくれたりと、2人とも無邪気に愛情表現してくれていたのだ。なのに私は内心「ああ、どうしてこうもみんなバラバラの動きをするのだろう。4人もいると話も同時にいくつも進行するから混乱する。東京での3週間の一人暮らしに慣れてしまった脳みそには一家団欒は刺激が強すぎるのだろう」なんて思ってしまったのだ。