大人の空間なんてどこにもなかったリビング
ああ、懐かしい。うちもああだった。庭はなかったけどマンションのリビングルームがおもちゃで溢れて、大人の空間なんて寝室以外どこにもなかったっけ。あの頃は泣きたいくらい大変だったけど、今思うと幸せな光景だなあ。
家の中に人がいる気配がするので長男が声をかけると、のっそりと大柄なおばさんが出てきた。おっと、ベビーシッターさんか? 見るからに不機嫌そうな態度で、こっちを睨んでいる。
ボールが入っちゃったのですがと長男がいうと、ボールって? と迷惑そうに庭を眺めるシッターさん。ああ、そこには大小色とりどりの球体がいくつも転がっているではないか。怒らせてはいけないと必死にサーチする。
「ええとあそこの、庭の真ん中にある黄色いテニスボールです!」
と私がいうとのろのろと庭の真ん中まで行き
「これはテニスボールじゃないわよ」
と怖い顔。慌てて隅々に目を凝らしたら、茂みに黄色い球が。
「あ、すみません。その木のすぐ後ろです!」
シッターさんは無言でかがみこみ、
「もう1個あった」
とボールを両手に持って立ち上がった。以前に投げ込んでそのままになっていたやつだ、と長男。