子どものやることなすことすべてに口出ししたり、手出ししたりしていませんか? 良かれと思ってやっているかもしれませんが、実はそれこそが子どもの成長する機会を奪い、自立して生きていく力を育むことの阻害要因になっているかもしれないのです。

 この特集では、子どもに対する過干渉育児を「カーリング育児」と定義し、そこから脱却するための様々なノウハウをお伝えしてきました。最終回にご登場いただくのは、2013年、世界体操選手権で史上最年少(17歳1カ月)の金メダリストとなり、その後体操界のエースとして活躍している白井健三選手のご両親、白井勝晃さん・徳美さんご夫妻です。「子どもがこうしたい」と思う気持ちややり方を尊重し、3人のご兄弟をそれぞれの道での成功に導いたご夫妻の子育てについて伺いました。

【先回りし過ぎ? これからは「カーリング→見守り」育児 特集】
(1) 「過干渉育児」の恐ろしい弊害 子育ては根気が一番
(2)  『嫌われる勇気』著者 “見守る勇気”で親も楽に
(3) “ママと長女”は要注意 きょうだい育児もリスクが
(4) 子育ても部下育ても原則は同じ「信じて、待つ」
(5) 編集部実践! カーリングママが“見守り”ママへ
(6) 白井健三を育てた極意「手を離しても心は離さない」 ←今回はココ

ルールや規制がない遊びの中から想像力が生まれる

白井勝晃さん・徳美さん夫妻(鶴見ジュニア体操クラブにて)
白井勝晃さん・徳美さん夫妻(鶴見ジュニア体操クラブにて)

日経DUAL編集部(以下、――) ご夫妻には三男の白井健三選手を含めた息子さんが3人いらっしゃいますが、特に「体操選手にしよう」とお考えではなかったと伺っています。もともとは、どんなふうに育ってほしいと思われていたのでしょうか?

白井徳美さん(以下、敬称略) 私たちは2人とも体操選手でしたから、その道の厳しさを知っています。ですから、本人が本当に「やりたい」と思わない限り、続かないだろうと思っていたので、「体操をやりなさい」とは言いませんでした。

 私たちが一番大事にしていたのは「本人の自主性に任せる」ことです。親が色々口を出したり、先回りしてレールを敷いたりするようなことはいけないと思い、「こうなってほしい」というよりも、子ども本人が「こうしたい」という気持ちを大事にしたいと考えていました。

 例えば、次男は体が大きく、私たちも「体操は向いていないんじゃないか」と考えたことがありました。それで、「別に体操をしなくてもいいんだよ。サッカーでもいいし、他のことをやっている子もいっぱいいるんだから」と声をかけたのですが、本人が「いや、僕は体操が好きだから体操をやる」と言ったので、「じゃあ、体操頑張ろうね」と話しました。

白井勝晃さん(以下、敬称略) 子どもたちがまだ幼かった15年ほど前、僕は教師をしていました。放課後はボランティアで女子のジュニア体操の指導をしており、それが忙しくなるにつれて、妻にも手伝ってもらうようになりました。

 当然、子どもたちだけで留守番はさせておけなかったので、体育館の隅で遊ばせていたんです。様々な体操器具の中でトランポリンの周りは比較的安全なので、私たちが指導をしている間は、子どもたちはそこに居ざるを得ませんでした。そこで兄弟や仲間うちで遊んでいる中で、「宙返りが1回できた」とか、「今度はひねってみよう」「僕は○回ひねったよ」というふうに、自分たちで「こうやったらいい」「ああやったらできる」ということが出てきたんですね。私たちが「こうやりなさい」と理論を教えたわけではなくて、自分の体をコントロールする方法を自分の体で覚えていったわけです。

 それがよかったのだと思います。ルールも規制もなく、好きに遊んでいたからこそ「自由な発想」や「想像力」が生まれてきた。私たちは指導論や子育て論を持っていてそれを実践したわけではなくて、必然的にそうなっていったんですね。

―― 家に帰ってから「もっとこういうことをしたらいいんじゃないか」と指導したことはなかったのですか?

勝晃 そうすると結局大人がレールを敷くことになって、子どもたちの想像力が発揮されず、面白いことが生まれてこないんです。体操も、あんまり大人が熱心に教え込んでしまうと、そのコーチを上回るものが出てこないものなんですよ。

徳美 子どもたちも、私たちにアドバイスを求めてくることはなかったですね。自分たちでどうしたらいいかを考えたり、話し合ったり、女子のジュニア選手の練習を観察したりして、自分たちなりに問題を解決していたようです。

勝晃 僕が40年近くテクニカルのコーチをしてきて分かったことは、女子の選手は常に不安なんです。だから練習中も、時々こっちを見て「今やってみたんだけど、先生どう?」というような顔をする。それに対しては、目を見てうなずいてあげたりして、常に「見ているよ」という安心感を与えてあげるのですが、それでもあまりせっつかないほうがいいんです。こちらの考えが入ってしまうので。

 ただ、本当に答えが欲しい目をしているときには、「ああ、今のは良かったよ」とか「今のはちょっと違うよ」などと返します。そういう距離の取り方ができるといい信頼関係が築けて、選手も安心して自分の練習に集中し取り組むことができるようになります。

―― 体操選手でも、女子と男子とでは、やはり違いますか?

<次のページからの内容>
● 愛情たっぷりに育った子どもはどこにでも羽ばたいていける
● 兄弟は決して比べない。同じように愛する
● 白井三兄弟はお互いにリスペクトし合う関係
● ONとOFFの時間を切り替えることの大切さとは?
● しっかり生活する親の姿を見せれば小言を言う必要はない
● 親にできることは見守り、背中を押し続けることだけ