子どものやることなすことすべてに口出ししたり、手出ししたりしていませんか? よかれと思ってやっているかもしれませんが、実はそれこそが子どもの成長する機会を奪い、自立して生きていく力を育むことの阻害要因になっているかもしれないのです。この特集では、子どもに対する過干渉育児を「カーリング育児」と定義し、そこから脱却するための様々なノウハウをご紹介していきます。

 そろそろ管理職になったり、部下を持ち始めたりしているDUAL世代。家庭では子育てに奮闘し、会社では部下との接し方に悩むという人も少なくないでしょう。コーチングの専門家である菅原裕子さん(ハートフルコミュニケーション代表理事)は、「子育てと部下のマネジメントには相通じるものがある」と話します。子育てにもマネジメントにも使える人育ての基本と、その具体的なテクニックについて教えてもらいました。

【先回りし過ぎ? これからは「カーリング→見守り」育児 特集】
(1) 「過干渉育児」の恐ろしい弊害 子育ては根気が一番
(2) 『嫌われる勇気』著者「“見守る勇気”で親も楽に」
(3) “ママと長女”は要注意 きょうだい育児もリスク 
(4) 子育ても部下育ても原則は同じ「信じて、待つ」 ←今回はココ
(5) 編集部実践! カーリングママが“見守りママ”へ
(6) 白井健三を育てた極意「手を離しても心は離さない」

できなかったとしても、まずは「取り組んだ」ことを認める

 「人を育てるというのは、相手が子どもであっても、部下であっても同じです」

 こう話すのは、『コーチングの技術』(講談社現代新書)、『子どもの心のコーチング』(PHP文庫)などの著書を持ち、研修、講演、企業文化構築のコンサルティング活動を行う菅原裕子さん(ハートフルコミュニケーション代表理事)です。

 「人を育てるときの原則としてよく引き合いに出されるものに、『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ……』という格言があります。人間が何かを学ぶ過程とは、まさしくこの通りなのです」

 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ」という格言は、太平洋戦争中の連合艦隊司令長官・山本五十六の言葉として、あまりにも有名です。この言葉は、江戸時代の大名で、米沢藩の藩政改革に尽力した名君・上杉鷹山が残したものが元になっているといわれています。

 「子どもが言葉を覚えるときは、親が話しているのを聞いて、まねをして覚えていきます。子どもに何かをやらせようとするなら、見ている前で親がやってみせることが一番効果的なのです。人間はモデルから学んでいく動物。どんな学びも、まず親や上司がモデルになって“やってみせる”姿を見せるところから始まるのです

 マネジメントでも子育てでも、失敗を恐れない体質をつくっていくためには、現状を否定するのではなく、行動を起こしたこと自体を認めることが欠かせない、と菅原さんは力説します。

 「どのようにやるのか、どんなに丁寧に説明しても、最初からうまくできることはほとんどありません。しかし、それでいいのです。大切なのは、『うまくできたかどうか』ではなく、まずは『取り組んだ』という事実=行動を承認すること。その後、成果についての評価と、次回改善するためにどうすればいいかという『フィードバック』を与えるのです。ところが、私たちは説明をしてやらせてみたとき、うまくいかないとつい教え込もうとしてしまったり、相手のしたことが気に入らず、なぜできないのかと責めてしまったりすることがあります。それでは、相手はやること自体が怖くなってしまいますし、反発も感じるでしょう」

 それでは、うまくできたときに褒めるのはよいのでしょうか?

<次のページからの内容>
● コーチングの4つの基本
● 正しくフィードバックを与えることが部下のやる気につながる
● フィードバックにまつわる疑問と秘訣
● 部下と質の高いコミュニケーションをとるテクニック
● 部下に仕事を任せたら、“関心を持って観察する”
● 部下の能力を引き出す5つのステップとは?
● セルフコーチングで自分自身もマネジメント
● コーチングの神髄はこの言葉に収れんされている