本当に勇気が要る「見守り育児」
アドラー心理学を広く認知させるきっかけとなった大ベストセラー『嫌われる勇気』の共著者、岸見一郎さんも、過干渉育児に警鐘を鳴らす一人です。
「子どもがやることを先回りして、手出し口出しするほうが、親としては実は楽なのです。色々注意して、言うことを聞かせたほうが育児をした気になるからです。
あえて手出し口出しせず、見守るという選択をするほうが、勇気が要る行為です。周りから、『あの人は子どもの面倒をちゃんとみない親だ』などと後ろ指をさされるかもしれません。でもそんな声に耳を傾ける必要はないのです。子ども自身が『これをやろう』と決意し、自ら動き出すのを待つ。そして親は子どもに指示してやらせるのではなく、子どもがやろうとしていることを援助する。そうすることによって、子どもは自立し、自分で生きていく力を育むのです」
手出し口出ししないといっても、命に関わるようなケガをしそうなときや、誰かを傷付けてしまいそうなときは「ダメ!」と注意しなくてはならないと、諸富教授も岸見さんも声をそろえます。
「“見守る”とは、裏を返せば“いつでも出ていけるように用意しておく”ことでもあります。子どもの行動に意識を向けず、スマホばかり見ていたら、子どもが危ない場面に遭遇したときに、ぱっと俊敏に動くことはできないはずです」(岸見さん)
この特集では、子ども自身がするべきことやぶつかる障害などを親が先回りして片付けたり、排除したりしてしまう育児を、氷上でストーンを滑らせるスポーツになぞらえて「カーリング育児」と定義しました。子どもが自分で対処すべきことに対して、ストーンの前の氷をブラシで掃くように、先回りしていませんか?
次回以降、諸富教授、岸見さんを含めた様々な専門家に話を聞いて、「カーリング育児」からの脱却法をご紹介します。まさに「カーリング育児」中だった編集者が専門家の話を聞いて「見守り育児」への転換を目指すルポ記事や、見守り育児を実践してきた体操の白井健三選手のご両親へのインタビュー記事もありますので、ぜひご覧ください。
(文/日経DUAL編集部 田中裕康 イメージカット/iStock)