子どものやることなすことすべてに口出ししたり、手出ししたりしていませんか? よかれと思ってやっているかもしれませんが、実はそれこそが子どもの成長する機会を奪い、自立して生きていく力を育むことの阻害要因になっているかもしれないのです。

 この特集では、子どもに対する過干渉育児を「カーリング育児」と定義し、そこから脱却するための様々なノウハウをご紹介していきます。第2回では、完結篇の『幸せになる勇気』と併せて233万部のミリオンセラーとなり、アドラー心理学を広く認知させるきっかけとなった『嫌われる勇気』の共著者の一人、岸見一郎さんにご登場いただき、岸見さん自身が実践し、効果を実証してきたアドラー心理学の「見守り子育て」の効用や正しい手順について教えていただきました。「少し時間はかかるけれど、子どもが早く自立し、結果的に働く親は非常に楽になります」と岸見さん。ぜひ皆さんの子育てに取り入れてみてください。

【先回りし過ぎ? これからは「カーリング→見守り」育児 特集】
(1) 「過干渉育児」の恐ろしい弊害 子育ては根気が一番
(2) 『嫌われる勇気』著者 “見守る勇気”で親も楽に ←今回はココ
(3) “ママと長女”は要注意 きょうだい育児もリスクが
(4) 子育ても部下育ても原則は同じ「信じて、待つ」
(5) 編集部実践! カーリングママが“見守りママ”へ
(6) 白井健三を育てた極意「手を離しても心は離さない」

アドラーを学んで子どもとの関係が大きく改善

 日本では知られざる心理学の大家だったアルフレッド・アドラーの考え方(アドラー心理学)を、一気にメジャーな存在に押し上げたのが、2013年に出版され、完結篇と併せて233万部のミリオンヒットになった『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)。その共著者の一人である岸見一郎さんが、そもそもアドラー心理学と出合ったのは、共働き子育てをしていたことがきっかけだったといいます。

 学校の教師である妻が復職した後、長男の保育園の送り迎えや病気のときの対応などを主に担っていたのは、研究者で比較的時間の融通が利いた岸見さんでした。「おむつの替え方やごはんの食べさせ方といった技術的なことはすぐに習得したものの、子どもとの向き合い方については皆目分かりませんでした。時間になっても保育園に行こうとしない、自転車に乗らないなどと、日々子どもと格闘することになり、仕事にも支障が出て、途方に暮れていた時期がありました。そんなときに、知人に勧められ、学び始めたのがアドラー心理学。『叱らない』『ほめない』『見守る』を中心としたアドラー心理学の子育てを実践するようにしたところ、当時、3歳だった息子との関係が大きく改善したのです」と岸見さんは言います。

 まず、息子が駄々をこねたり、泣きわめいたりして自分の要求を通そうとするといった、「親を困らせるような問題行動」が劇的に減りました。小学校に入った後も、学校の準備も宿題も自分できちんと行い、親が「勉強しなさい」と一度も言ったことがないにもかかわらず、自ら進んで勉強する、自立心旺盛な子どもになりました。その息子は今、31歳になり、岸見さんと同じように哲学の研究をしているそうです。

アドラー心理学の「見守り子育て」を実践すると、「親から言われなくても自分からやる」といった自立心が育まれやすい。写真はイメージ
アドラー心理学の「見守り子育て」を実践すると、「親から言われなくても自分からやる」といった自立心が育まれやすい。写真はイメージ

 「本来、子どもというものは、親が思っている以上に早い時期から自立できるものなのですが、いつまでも子ども扱いして、先回りしてあれこれ世話を焼いたり、指示したりしていると、その自立の芽を摘んでしまいます。すると、子どもはいつまでも親を頼るようになり、うまくいかないことは親のせいにするようになる。つまり依存するようになってしまいます。

 特に共働きの親の場合は、子どもがいつまでも手がかかり、親がすべてを把握して手取り足取り世話をしなければいけないような状況だと、仕事にも差し支えます。だから、多少回り道のように思えても、先回りをやめて見守る育児に切り替えたい。その結果得られるメリットは、計り知れないほど大きいです」。

 では、岸見さん自身も実践し、確かな効果を実証済みのアドラー心理学の「見守り子育て」とはどのようなものなのでしょうか。次ページから詳しく紹介していきます。

<次のページからの内容>
● 「ほめる」「叱る」がNGのワケ
● 親子関係の悪化がもたらす恐ろしい弊害とは?
● 子どもの「課題」に土足で踏み込んではいけない。親が意見を伝えたいときの正しい手順とは?
● 子どもがなかなか起きず、保育園に遅れそう!そんなときはどうすればいい?
● 子どもに「相談」するのが有効な理由
● 子どもの「貢献感」を育む「ありがとう」の一言