創刊5周年を迎えた日経DUAL.。共働きの私たちの大きな関心事のひとつが、子どもの未来、教育や受験です。そこで、この5年、大きな変化を遂げてきた都立日比谷高校の校長・武内 彰先生が日々、どのような思いを持って生徒たちに接しているかを聞き、未来を担う子どもたちをどう育てるかのアドバイスも聞きました。武内先生のお話から見えてきたキーワードはグローバルリーダーそして、子どもが属するコミュニティの影響力です。高校入学はまだまだ先、という方にも、今すぐ実践できるアドバイスが詰まったインタビュー、ぜひじっくりお読みください。

【5周年記念号/私たちが歩んできた道、歩む道】
(1) ロールモデルなき新時代に突入するデュアラーたち
(2) 共働き世代が居場所と生き方を暗中模索した5年間
(3) 5年で働きやすさは増し、実力がものをいう社会に
(4) 日比谷高校から海外大学選ぶ子も 目標は合格の先 ←今回はココ
(5) 共働きですから、そろそろ皆さん、男女平等で

1日の中の文武両道を実現できる子が最後に勝つ

 2018年度(平成30年度)入試で都立日比谷高校は48人の東大合格者を出し、東大合格者数で全国ベスト9位に入りました。低迷していた都立高校の復権のために、2001年に、日比谷高校を始めとする4校が「進学指導重点校」に指定されたのを転機に、都立高校では、進学指導を強化。その流れで2012年に同校校長に就任したのが、武内 彰校長です。2016年には東大合格者が53人、2017年には45人と着実に結果を出し、最近は、開成高校にも合格した生徒が日比谷高校を選ぶなど、教育界に大きな変化をもたらしています。日比谷高校にはどんな生徒が集まっているのでしょうか。

編集部(以下、――) まず、日比谷高校が求めている生徒像を教えてください。

武内 彰(たけうち あきら)<br> 1987年東京理科大学理学専攻科修了。物理教師として都立高の教壇に立つ。都立西高校副校長などを経て、2012年より日比谷高校校長。かつての名門を独自の方針で復活させ、2016年には東大合格者53名、2017年には45名、2018年には48名を記録し、教育界で注目されている
武内 彰(たけうち あきら)
1987年東京理科大学理学専攻科修了。物理教師として都立高の教壇に立つ。都立西高校副校長などを経て、2012年より日比谷高校校長。かつての名門を独自の方針で復活させ、2016年には東大合格者53名、2017年には45名、2018年には48名を記録し、教育界で注目されている

武内先生(以下、敬称略) とてもシンプルです。

・勉強も学校行事も部活動も全力で取り組む子
・その上で、自分の進路希望の実現に向けて最後まであきらめない子

 日比谷高校はこういう生徒に合う学校です。

 勉強も部活も行事も全てのことに頑張る友だちが周りにいるから、自分も前向きな気持ちになれて伸びていけます。そういう環境を望む生徒に選んでほしいと思います。勉強だけしたいから、自分の学力が高いから、進学実績が高いからといって日比谷を選ぶと、ミスマッチになるかもしれません。

―― 今年度は部活に入っている生徒が94%。3年生の秋までは部活や行事を全力で盛り上げ、受験勉強に専念するのはその後からと聞きました。私立の一貫校に比べると遅いと思いますが、それでも、48人の東大合格者数を出せるのは何か秘策があるのでしょうか? 学年プラス2時間の勉強をするように指導しているそうですね。

武内 秘策はありません。部活や行事が忙しいですから、学年プラス2時間の勉強ができている子も3年の秋まではとても少ないです。ただ、1日の中の文武両道を実践することは、入学時から常にメッセージを送っています

 1日の中の文武のバランスをどう取っていくかは極めて大切です。学校行事や部活を頑張るだけの生活をしていてはやはり希望はかなえられません。1日の中に部活、行事が多くを占めても、わずかな時間での学びを忘れてはいけません

 生徒達には1日の中の文武両道を貫き、それを365日、3年間続ければ、君たちの前に後悔という文字は絶対に現れないよと伝えています。部活の遠征などで見ていると、隙間時間に単語帳を見るなど、時間の使い方が上手な生徒が多いですね。やらなければいけないという覚悟があるのでしょう。

自由放任では子どもは育たない。適切なサポートも必要

―― 入学したときからそのように自分を律することができる生徒たちなのでしょうか?

武内 勉強する姿勢を持っている子が入学してきているのは間違いありませんが、中には、合格できて喜んで、数カ月ダラダラと過ごしてしまうという子もいます。ですから、入学式で必ず送っているメッセージがあります。

「合格を喜ぶのは今日までです。明日から、更なる高みを目指す仲間との学びがスタートします。その覚悟を持って過ごしていきましょう」

 メッセージを送るだけではありません。担任はクラスの生徒と年4回の面談を持ち、学習と生活、進路についての意識をできるだけ高く持ってもらうように心がけています。資質や能力の高い子たちではありますが、自律的な学びができる子ばかりではありません。そういった子には補習をしたり、日々行っている小テストで、クリアラインに到達できていない場合は再指導をするなど、手をかけることもしています。

 学びの歩みを止めないように、大人がそばにいて、背中を押してあげるということはやはり必要です。そうしたサポートを受けつつ、卒業までには間に自分の力で、駆け抜ける力を付けていってくれればいいと思っています。

 生徒たちには定期テストなどでの相対的な位置はあまり気にしなくていいとも言っています。大事なことは、この集団の中で努力を怠らず、やるべきことをやって行くということです。そういう子は、例え日比谷で最下位であったとしても、3年後には全国の上位にいます。

 実際、一度本気になった子どもの中には、学年の300番台(日比谷高校は1学年320人強)、200番台の後半であったとしても、現役で難関大学に入っていった例もあります。子どもの可能性というのは計り知れません。全ての子にその可能性がある。そういう思いで子どもと接することを大切にしています。

<次のページからの内容>
● 育てたいのは社会のリーダーとなれる子。東大は目標ではない
● 小学校までは直接体験、協働作業、読書を大切にしてほしい
● 中学受験は伸び切ったゴムになりがち。学ぶ心を持ち続けられることが大切
● 「伸びしろ」のある子は生活リズムが整っている