『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)、『からすのパンやさん』(偕成社)などの絵本の著者として知られるかこさとしさんが、2018年5月2日に92歳で逝去されました。

 物語絵本、科学、天体、社会関係の知識絵本、紙芝居など多岐にわたり600作以上の作品を残したかこさんは、子どもを「子どもさん」と敬意を込めて呼び、今を生きる子どもたちはもちろん、未来の子どもたちへの思いを胸に、最晩年まで創作活動を続けたかこさんへのインタビューを基に、かこさんから子どもたちへのメッセージを3回に分けて掲載します。

 最終回では、沖縄の人々への思いを込めた『だるまちゃんとキジムナちゃん』についてのお話、そして、これからを生きる子どもたちへのメッセージをお届けします。

(上)かこさとし 子を思う親の気持ち、懸命であればいい
(中)かこさとし 災害が多い日本でどう生き、対処すべきか
(下)かこさとし 僕は子どもの応援団員
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(※2018年3月15日に実施したインタビューおよび、加古総合研究所提供のインタビューを基にまとめています)

いつかは沖縄の問題を取り上げ、応援したかった

日経DUAL(以下、──) 2018年1月に3冊同時に出された絵本のうち、『だるまちゃんとかまどんちゃん』『だるまちゃんとはやたちゃん』は東北を舞台にしていますが、『だるまちゃんとキジムナちゃん』は沖縄を舞台にされています。どのような思いを込められているのでしょうか。

かこさとしさん(以下敬称略) 沖縄はこれまで、さまざまな逆境にさらされ、今に至るまで解決していない問題を抱えながら、その状況を何とか耐え抜こうとしてきています。

 政治的なことはあまり言いたくありませんが、太平洋戦争後の状況がいまだに十分改善されていない、解決されていないということを、内地にいる子どもさんたちにこそ、忘れずにいてほしい。何より僕自身が、いつかは沖縄の問題を取り上げることで、何とかして応援をしたいと思っていたんです。

── 物語としては、だるまちゃんが沖縄に住んでいるキジムナちゃんと出会って遊んでいると、お父さんである「だるまどん」と、研究者である「いしみねせんせい」が、巨大なハブに巻かれてしまい、それをだるまちゃんとキジムナちゃんが助けるという展開になっていますね。

かこ まずこの絵本では、信仰や生活など、日本の他の地域とは異なる沖縄だからこそ伝わってきたものを、描きたいと思いました。

 沖縄の島々には、日本の他の地域と違う歴史と習慣があります。その一つにニライカナイという、火と稲の起源を求める伝承があるのですが、これは海の向こうのニライカナイから神々が人間の世界を訪問し、種々の豊饒繁栄をもたらすともいうものです。この、海の向こうの神様への厚い信仰は、沖縄ならではのものでしょう。

 キジムナちゃんの基になったキジムナーは、沖縄で古くから言い伝えられている、ガジュマルの木で暮らす精霊です。人間にちょっかいを出すのが好きな、「いたずら小僧」の代表のような存在でもあるのですが、キジムナーを連れて漁に行くと必ず大漁になるなど、人間と共存する存在でもあります。沖縄の本島ではキジムナーと呼ばれますが、他の島々ではブナガヤ、ブナガイ、マジムン、カナマザ、フルファガ、フイジムン、ミヤマグ、カナマガなどの名で、それぞれの島の民話に登場していて、それぞれの島ごとの願い、面白さが託されているのだと僕は思いました。

 ハブは沖縄の人たちにとって、もはや単にいやだ、怖いという存在ではなく、沖縄独特の動物であるヤンバルクイナなどのように、ある意味、自分たちの仲間として親愛を持って接していると僕は感じました。絵本に登場したハブだって、石垣の下をごそごそやられたから出てきたのであって、本来はむやみにかみついたりはしないと、沖縄の人たちは思っている。

 そういう、沖縄ならではの信仰の在り方や、生き物や自然との共生の姿を、いろんな面から表現したかったんですね。

2018年3月15日、ご自宅にて
2018年3月15日、ご自宅にて