20年後にも生きる、問題にならない内容に

── ところでだるまちゃんシリーズは昨年、誕生50周年を迎えました。これだけ時を経ても、だるまちゃんシリーズをはじめ、かこさんの絵本は長く愛され続けているのは、かこさんが「20年先」を見据えて絵本を描かれていることも関係しているのかと思いました。改めまして、なぜ、20年先を意識されるようになったのでしょう。

かこ 20年先のことを考えてというのは、だるまちゃんシリーズというよりは、科学絵本を手掛けるようになってからですね。

 最初の科学絵本は、今から50年ほど前に出した『かわ』(福音館書店/初版1966年)ですが、おとぎ話のような絵本を描いているうちは、そこまで意識しなくていいでしょうけれど、科学的なものを描くように勧められたときに、これは大変なことだと思いました。今、一番正しいと思った内容を描いても、これを読んだ子どもさんは、少なくともこれから20年は生きていくわけです。

 すると僕がいなくなった後に本だけが残って、「なんだ、あいつの描いた絵本を子どものときに読んだけれど、事実と違っているじゃないか」などと、今の世の中はこっちだから、こんな考え方はダメだと言われたんじゃ恥ずかしい。

 少なくとも、子どもさんが読んだときから20年経って、社会人として生きていくときに、あのとき読んだ科学絵本は、少なくともマイナスではなかったと思ってもらえるような内容でなければ、僕は何のために描いたのかと思ってしまう

 もしかしたら金もうけのためだけなら、その時々のことを書けばいいのかもしれませんが、僕は、子どもさんのために、そんなことをするのかと自分で反省もして。それで、20年後にも生きる、問題にならない内容にしなければと思いました。

── 科学絵本シリーズはその後もたくさん出されていて、影響を受けたとおっしゃる方も多いですよね。科学絵本シリーズを書かれるときは、専門家の方ともお話されるのですか?

かこ 科学絵本シリーズを描くときには、僕は自分とは専門が違う分野の先生に、臆面もなく、実はこういうことをまとめたいのだけれど教えてくださいと、全部頼みました。すると専門の学者の皆さんは快く教えてくださるんです。

 ただね、学者さんというのは自分のいろんなことに責任を持つから、論文として出せるような決定事項は言うけれど、それ以上の見通しとか、20年後はこうなっていると思いますなどということは、ほとんど言っていただけないんです。それはもう、お酒を飲んだときなどにチラッと言うくらい(笑)。それでもこちらは20年後を考えているわけだから、学者さんが世の中には発表できないような、自分の思っていることを教えてもらわなければいけない。これが時間がかかってね(笑)。

 でも関係する学者さんは、粘りに粘った甲斐あって、よく教えてくださいました。雷のことだったり、その当時の海の状態だったり。今から思えば笑い話ですけど、海の状態を描こうと思ったら、海なら金銀サンゴがあるだろうと思って書いていたら、海洋研究所の若い先生に笑われてしまったこともありました。当時、海の中の写真は一般に出回ってはいなくて、シュノーケリングなんてなかったですし、その先生が自ら潜って撮った写真を貸していたただいたりもしました。

 そう考えると、世の中はずいぶん変わりましたね。ただ、資料や環境が整わない中、先生方に正確に教えてもらえたのは、とても幸いでした。