子どものためにもなるべく危険のない環境で、食べ物も安全なものを吟味して、安心して生活したい…親なら誰しもが願うことです。しかし前回の記事で、「ゼロリスク」を求めるのは非現実的であり、リスクをハザードと区別して正しく知る必要があることを、リスク管理の専門家であるリテラジャパン代表の西澤真理子さんに解説してもらいました。

 「リスクとは、好ましくないことが起こる可能性で、ゼロにはできない」。この前提に立ったうえで、親としては身の回りにあるリスクをどう判断し、付き合っていけばいいのでしょうか。引き続き、西澤さんにお話を聞いていきます。

【年齢別特集 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) 災害、食の安全…リスク管理に「絶対」はない
(2) 子どものリスク判断には「身近な例との比較」不可欠 ←今回はココ
(3) 思春期の親への反抗 親は「来たか!」と面白がろう
(4) 友達関係の悩み 親にできるのは「安全基地」づくり

 子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

リスクは「比較すること」でしか判断できない

 東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の後、多くの人々が不安視したのが放射性物質と「食の安全」でした。西澤さんは、あるリスクについての科学的な評価と、それにどう対応するのかを伝える「リスクコミュニケーション」の専門家として、福島第一原子力発電所事故後に行われた住民参加の意見交換会や、国連のIAEA(国際原子力機関)でのガイドライン作成にも携わってきました。

 「環境リスク学の専門家で、リスク評価手法の確立に尽力している中西準子先生という方がいます。中西先生はまず、リスクの程度をできるだけ定量的に評価・比較し、それに基づいた合理的な対策を取るべきだと考えています。私もそれに賛成で、リスクは他のリスクとの比較でしか判断できないのではと思っています

 「例えば、放射性セシウム134と137と(以下、セシウム)がどれくらい危険なのかを判断するには、リスクを他のものと比べてみることが大切です。セシウムのデータだけを見てしまうと、セシウムをゼロにしなければならないと考えてしまいがちですが、私たちの周りには、カリウム40という天然の放射性物質があります。セシウムはカリウムと化学的な性質が似ているので、体内での蓄積のメカニズムなどがほぼ同じ働きをする、と考えられています」

 セシウムという未知の言葉を聞いたとき、人は知らないというだけで怖いという印象や不安を持ってしまいます。しかし、「カリウム40についての知識がない状態でセシウムの話はできない」と西澤さんは語ります。

 「これだけ発電所が多い日本ですから、本来は福島の事故が起きる前に基礎知識の教育をしておくべきでした。事故が起きた後に知ったことで、いたずらに恐れる気持ちが先走ってしまったといえます」

<次のページからの内容>
● リスクを冷静に受け止めてもらうには、「どう伝えるか」が重要
● スプレー缶、コンタクトレンズ、…日常に潜むハザードにも関心を持つ
● 子どもに分かりやすく話すことで、親のリスクへの理解も深まる
● 未知の物事に出合ったら、中立的機関の情報ソースに当たる習慣を