大地震や豪雨など、今年も日本は多くの自然災害に見舞われました。その他にも、例えば食中毒や交通事故、受動喫煙など、程度の差こそあれ、身の回りには生命や安全な暮らしを脅かす様々な事象が存在します。子を持つ親であればなおさら、こうしたことに敏感になるのではないでしょうか。

 小学校高学年になれば、身の回りにある「危ないこと」について親子で話し合い、理解できる年ごろ。そのためには、「○○は危険」「△△は食べないほうがいい」「直ちに影響はない」といったちまたにあふれる多くの情報をまずは親が冷静に読み解く必要があります。安全情報の伝達などを通じて利害関係者の信頼構築を目指す「リスクコミュニケーション」の専門家、リテラジャパン代表の西澤真理子さんにリスクの基本的な考え方を聞きました。

【年齢別特集 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) 災害、食の安全…リスク管理に「絶対」はない ←今回はココ
(2) 子どものリスク判断には「身近な例との比較」不可欠
(3) 思春期の親への反抗 親は「来たか!」と面白がろう
(4) 友達関係の悩み 親にできるのは「安全基地」づくり

 子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

リスクは、「好ましくないことが起きる可能性」のこと

 私たちは日常生活で、リスクという言葉を「危険」という意味合いで漠然と使っています。また、「リスクはできればゼロにしたい」と考える人も多いでしょう。ただ、メディアでの報道も含めて、リスクの意味することが、かみ合っていないと感じたことはないでしょうか。

 そもそも、リスクとは危険そのものを指す言葉ではありません。「リスクは好ましくないことが起きる可能性のこと。ゼロになることはあり得ず、度合いで判断するものです」。そう話す西澤真理子さんは、日本では「リスク」と「ハザード」が混同されていると指摘します。

 「例えば地震なら震度1、震度7といった危険度が『リスク』です。一方で、『ハザード』とは好ましくないことを起こす原因となる危害因子。この場合、地震そのものを指します」

リスク→好ましくないことが起こる可能性、危険度
ハザード→好ましくないことを起こす原因となるもの、危害因子

 リスクの大きさは、次のような式で考えられます。

リスクの大きさ(高さ)…ハザード×ばく露量

 「ばく露」とは、何かを食べたり、吸ったり、皮膚に触れたりすることを指す専門用語です。例えば、日本酒やビールなどのアルコール飲料は「ハザード」ですが、どの程度のリスクになるかは、飲む量によって決まります。また、飛行機で移動すると地上よりも多くの自然放射線を浴びることになり、日本からアメリカに飛ぶと、胸のエックス線4回分と同程度と言われています。

 ハザードはあくまで危害因子であって、ばく露量が少なければ、リスクも小さくなります。震度7の地震は命さえ危うくする大きなリスクですが、震度1の揺れを深刻に恐れる人はまずいないでしょう。つまり、お酒や飛行機、地震そのものが絶対的に危険だとは言えないわけです。

 「日常生活を送る中でハザードはどこにでもあり、私たちは自分なりに、それぞれのリスクの度合いが小さくなるように調整しています。身近なところでは、深酒は健康のリスクが大きいのでお酒は適量に、揚げ物の焦げも健康リスクが高いため、焦がしてしまわずキツネ色に。こうした心がけは、私たちがハザードに対してばく露量を調整してリスクを少なくする行動だといえます」(西澤さん)

<次のページからの内容>
● かつてリスク管理は「科学者や政治家任せ」だった
● 「安全」は数値で客観的に測れるもの、「安心」は精神論
● 日本では「リスク」と「ハザード」をまとめて「危険」と解釈
● 1つのリスクを減らすと別のリスクが増える