プログラミング教育を全国に先駆けて導入し、モデル校として視察・取材が絶えない公立小学校が東京都小金井市にあります。子どもたちはパソコンでタイピングし、早ければ3~4年生でBASIC、5~6年生でJavaScriptといったプログラミング言語を使い始めるのです。

小金井市立前原小学校で校長として陣頭指揮を執ってきた松田孝さんは「プログラミングを学ぶことで、自分の頭で物事の本質を考えられるようになる。将来必ず役に立つ“生き抜く力”が身につくのです」と語ります。

松田さんは7年ほど前から「ICT教育」に取り組む教育業界のトップランナー。2019年3月末、59歳で東京都教育委員会の教育公務員を辞職し、合同会社MAZDAIncredibleLabを立ち上げ、より広く「ICT教育」「プログラミング教育」を推進する活動を行っています。そんな松田さんに、ICT教育・プログラミング教育が持つ可能性について聞きました。

【年齢別特集 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) プログラミング教育で子どもは劇的に変わる ←今回はココ
(2) ICT先進校「公開授業」で見えた子どもの可能性
(3) 「授業中寝てもいい」桜丘中学の“正解のない”教育
(4) 親の成功体験を押し付けない 中学受験は本人次第

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松田孝(まつだたかし)
松田孝(まつだたかし) 東京学芸大学教育学部卒、上越教育大学大学院修士課程修了。狛江市教育員会指導室長、小金井市立前原小学校校長などを経て、2019年4月合同会社MAZDAIncredibleLabを設立。現在、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程にも在籍。小学校教育のあり方を根底から再考し、ICT教育・プログラミング学習を公立小学校でいちはやく実践している。第20回学校図書館出版賞受賞「プログラミング絵本」シリーズ(フレーベル館)など小学生向けのコンピューター書籍も監修。

タブレット端末との出合いで確信したICT教育の可能性

 私がこの春まで校長を務めていた小金井市立前原小学校は、ICT教育の先進校として、総務省や教育委員会、また他の小学校から評価を受けていますが、最初からうまくいったわけではありません。

 AppleがiPadを発売した2010年頃、私は東京都狛江市の教育委員会にいました。そこでiPadに出合い、「これは単に勉強がはかどるツールではなく、子どもが主体的に学ぶことができるツールだ」と確信しました。タブレット端末を使った教育のリデザインに、新しい学びの可能性を感じたのです。

 その後、多摩市立東愛宕小学校(現、愛和小学校)に校長として赴任し、児童一人に1台ずつiPadを使わせての学習を始めました。児童数の増加につれてWindowsタブレットやChromebookも導入。さらに、2016年4月に赴任した小金井市立前原小学校でも、ICT教育を積極的に実践してきました。

 しかし、初期段階でつまずいてしまいました。タブレットやパソコンを小学校に導入すればICT教育がスムーズに始められるかというと、ことはそう単純ではなかったのです。日本の教育では国語教育や社会科教育など色々な教科教育法があり、この考え方が学校現場の授業を規定していました。完結性があり、完成度も高かったので、必ずしも教員はICTを必要としていなかったのです。

 教員にはこれまで実践してきた授業に自信と誇りがあるので、指導法を強引に変えさせるとアイデンティティーの否定になってしまいます。推し進めようとする中では、「そんなことは無意味だ」などといった意見も出ました。特にベテランの教員ほど、その傾向は顕著でした。

 だから、これまでの授業の枠組みに、単にICTをアドオンするだけの利用に留まっていたのです。そうではなく、ICTを真ん中に据えて、授業をゼロベースで考えるようにしなければ、「学び」は変わらないと考えました。

<次のページからの内容>

● プログラミングを導入すると子どもたちの表情が変わった
● 最終的にたどり着いたのが「IchigoJamBASIC」だった
● プログラミング学習で身につく、将来生きる6つの生き抜く力
● 将来自分で稼ぐ力がつき、セーフティーネットにもなる
● 受け身の「勉強」から、主体的な「学び」の時代へ