近年、知識や技能など、何かを学ぶツールとしてゲームを活用する「ゲーミフィケーション」という手法が幅広い分野に広まりつつあります。子どもにとってもゲームは単なる遊びではなく、付き合い方次第で様々な能力を伸ばすことにつなげられるのではないでしょうか。

 そこで、ゲームを通した「学び」の可能性について、日本のゲーミフィケーション研究の第一人者である東京大学 大学総合教育研究センター特任講師の藤本徹先生にお話を聞きました。

【年齢別特集 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) 容姿、体形…コンプレックスに親はどう寄り添う?
(2) 「体育嫌い」の子が「運動嫌い」にならないために
(3) 高学年の子 ゲーム遊びのルールづくりと注意点
(4) 第一人者に聞く ゲームがひらく新たな学習の可能性 ←今回はココ

子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

学習からビジネストレーニングまで、幅広い分野でゲーム手法を活用

 ゲームというと、とかく「勉強もしないでゲームばかりやって…」などと、子どもに良くないもの、注意すべきものという見方をされがちです。でも、果たしてそうなのでしょうか?

 「確かに一昔前は『ゲーム脳』などと呼んで、『ゲームは子どもたちにとって有害だ』とするような話が主流でした。でもここ10年くらいの間に、ゲームをもっとポジティブに捉えようという流れが進展してきました」。そう話す藤本先生はアメリカに留学していた際、災害や環境問題といった社会的な課題を解決するツールとして機能する「シリアスゲーム」の研究活動に出合いました。こうした動きは当然日本でもあるべきと考えて、2003年ごろから海外と連携しつつ研究を続けています。

 ゲームのポジティブな効果が認知されるようになった背景には、子どものころにゲームで遊んでいた世代が親になり、ある程度ゲームに理解があり、役に立つと分かっている人が一定数いることもあるのではと藤本先生は話します。そうした中、最近は「ゲーミフィケーション」という言葉もよく聞かれるようになりました。これはゲームの手法を学習や技能の習得など、遊び以外の目的に応用することを指します。

 学習のツールとして使うということでは、日本でも楽しみながら学ぶ「エデュテインメント」という造語が以前からあり、学習を目的としたボードゲームやパズル、カードゲームなどの知育ゲームというジャンルも定着しています。これに対しゲーミフィケーションの概念は、子ども向けの学習にとどまらず、ビジネスシーンでの戦略的思考のトレーニングから高齢者のリハビリまで、多様な分野での活用が含まれています。それだけゲームの有用性が広く認められるようになったということです。

 「海外ではゲーミフィケーションやシリアスゲームに関する相当な数の研究が行われていて、認知的な学習や、物事に対する積極的な態度を身に付けるのに効果があるといった研究結果も出ています。また、一般的な教育方法よりもゲーム学習のほうが、知識や記憶の定着に効果が高いということも分かっています。

 シリアスゲームの例を挙げると、都市開発をしていく『シムシティ』というシミュレーションゲームがありますが、開発しているアメリカのメーカーが『シムシティエデュケーション』という教育用のシナリオを作り、学校で使えるようなレッスンプランとセットで提供しています」

 何かを学ぶツールとしてゲームを見たときに、その大きな特長は『参加型』『試しながら学べること』にあると藤本先生は言います。どういうことなのか、次のページから詳しく見ていきましょう。

<次のページからの内容>
● ゲームにはアクティブラーニングの要素が入っている
● コミュニケーションの機会を広げるオンラインゲーム
● 「スプラトゥーン」で磨かれるソーシャルスキル
● ゲームの楽しさが、「経験を通して学ぶこと」に役立つ