教育の選択肢が増えてきていますが、「新しい学び」の機会を子どもに与えたいと思っても、親自身が詳しく知らなければ、検討することすら難しいもの。本記事では、前編に続き、文部科学省が日本への導入を推進している「国際バカロレア(IB)」の「日本語DP」(日本語と英語のデュアルランゲージ・ディプロマプログラム)について、学びの内容やその難易度、大学進学の実情、「自分で考える」力をつけるために小学生のうちから家庭でできること、などについて、国立と公立の2つの高校でIBコーディネーターを務めた高校教員、熊谷優一さんに聞きます。

【年齢別記事 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) 国際バカロレア 「英語が得意な子向け」という誤解
(2) 海外大進学だけじゃない 生涯学習者目指すバカロレア ←今回はココ

日本国内の大学だけでなく、世界の大学を狙うことも可能

 将来生き抜く力をつけるために、探究力や思考力をわが子に身に付けてほしいと考える親は少なくないでしょう。「探究力や批判的思考力などのいわゆる21世紀型スキルと言われる力を伸ばす教育手法を国内に広げていくことを目的とした、パイロットスクールのような位置付けで、公立のバカロレア(IB)認定校が少しずつ増えつつあります。2022年3月時点で、国公立のIB認定校は小・中・高合わせて全国で14校あります(中高一貫校は1校として計上)」。IBのリードエデュケーターとして日本語DP校への言語学習支援も行っている高校教員の熊谷優一さんは言います。

 「PYP(3~12歳向けの初等教育プログラム)とMYP(11~16歳向けの中等教育プログラム)にも試験はありますが、それが何か資格になるわけではありません。一方で、DP(16~19歳向けのディプロマプログラム)のディプロマ(IBDP)を取得できれば、多くの国において、大学の入学資格となりますので、日本国内の大学だけでなく、世界の大学を狙うことも可能です」

 IBDP取得のための勉強は、従来の大学入試のための勉強とはかなり内容が異なる、と熊谷さん。「例えば、大学入学共通テスト(旧・大学入試センター試験)では、4択から1つの正解にたどりつく勉強が求められてきました。でもIBで測られるのは別の種類の学力だと考えられます」

 子どもによって向き・不向きもあるそうです。「ずっと座って先生の話を聞くような、情報伝達型の学び方が得意ではない、『もっと自分で考えたい、考えて自分なりの答えを出したい』と思っている子たちが、このプログラムを求める傾向はあります」

 そう聞くと「わが子は自分で考えたり、考えたことを表現したりするのが好きなタイプではない」と思う親もいるかもしれません。しかし、小学生の段階で早々に決めつけたりせず、「そうした環境を与えられていないことが理由かもしれない」と疑ってみることを熊谷さんは提案します。「『あなたはどう考える?』と意見を聞かれる機会が少ないから言わないのかもしれません。本当は考えをもっているのに、聞かれないから子どもたちは答えないだけかもしれない。もしかしたら親や大人の質問の仕方がよくない可能性もあります。

 機会を与えられていないから気づいていないだけで、実はIB的な学びに向いていて、そちらを選択すればぐんと伸びる子はたくさんいるのではないかという希望は持っています。小学生時代は考える力を育むために大事な時期だと思います」

 人生100年時代の世の中で必要なのは「生涯学習者になること」で、そのためにIBの学び方は最適だと話す熊谷さんに、日本語DPの学びの内容や、その難しさ、大学進学の実情、小学生のうちから家庭で取り入れるといいことなどを詳しく聞いていきます。

◆この記事で読める内容
・海外? 国内? 大学進学は
・日本語DPの学びの内容 どれくらい大変?
・どんな子に向いている?
・「考えるのが好き」な子に 小学生のうちから家庭でできること
など

大学進学はどうなるの?

 日本では、インターナショナルスクールなどを中心に導入されている英語のみの「英語DP」に加えて、科目の一部を日本語でも実施できるデュアルランゲージ・ディプロマプログラム「日本語DP」が開発・導入されています。「日本語DPの場合、英語DPより海外大学進学で不利になるのではないかと心配する人がいますが、それはありません」と熊谷さん。