小学校高学年の時期の子どもは、精神的な成長に伴って「周囲と比べた自分」を意識し、様々なことにコンプレックスを感じるようになります。中でも運動が苦手な子は、「できる」「できない」がその場で明らかになる体育の授業での体験を通して、運動嫌いになってしまいがちです。

 これに対し、「運動音痴の子というのはそもそもいなくて、体の動かし方を知らないだけ」と話すのは、学習と同様に体操教育にも力を入れるアフタースクール「武学塾」塾長の柿沼英明さんです。極真空手道場で多くの子どもを指導してきた柿沼さんに、「運動コンプレックス」の本質と、親子での向き合い方について聞きました。

【年齢別特集 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) 容姿、体形…コンプレックスに親はどう寄り添う?
(2) 「体育嫌い」の子が「運動嫌い」にならないために ←今回はココ
(3) 高学年の子 ゲーム遊びのルールづくりと注意点
(4) 第一人者に聞く ゲームが開く新たな学習の可能性

子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

基礎を整えれば運動能力は誰でも向上する

 小学校の高学年くらいになってくると、自分の得意不得意もはっきり分かってきますが、中でも目立つのが、「運動が苦手で体育の授業が苦痛」という声。特に男の子では、いじめにつながるのでは……と心配する親もいるのではないでしょうか。

 走るのが遅い、跳び箱が跳べない、球技が下手など、苦手の内容は色々ですが、運動音痴という言葉もあるように、運動神経の良しあしは生まれつきのものだと思い込んでいませんか? 柿沼さんによると、「生まれつき運動音痴の人」というのはいないのだそうです。

 「子どものうちは、駆けっこが速い子や動作がすばしっこい子が運動神経が良いと思われがちですが、実はそんなことはありません。駆けっこが速いのは瞬発系の筋肉が発達しているからであって、イコール運動神経が良いということでもないのです。運動神経は生まれ持った筋肉だけでなく、バランス感覚や重心の取り方、体の柔軟性、動体視力など色々な要素が絡み合っているので、基礎的なことをしっかり整えてあげれば必ず良くなっていきます

 バランス感覚や重心の取り方が無意識のうちに身に付いている子もいれば、練習を重ねることで体得する子もいます。そうした個人差によって、いわゆる“運動神経の良い・悪い”が印象づけられているようです。

できない原因を一つ一つ取り除くことが重要

 走るのが遅いのは、体のバランスが取れていないために足を出すテンポが遅れてしまうから。球技で俊敏に動けないのは、動体視力が良くないためにボールをうまく追えないから。跳び箱が跳べないのは、恐怖心があって体が固まってしまうから――。このように、できないのには一つ一つ原因があり、それらをきちんと取り除いていけば運動神経を鍛えることは十分に可能だとか。柿沼さんは、武学塾に入ってきた子どもたちが、一度ポイントを教えただけで体の動きがすぐに変わったケースを見てきました。

 「駆けっこのときに足を引きずるようにペタペタと走っている子がいたのですが、足の動かし方を1回教えただけで、見違えるように速く走れるようになりました。

 また、跳び箱が苦手な子もよくいますが、まずは『走ってきて足をそろえてロイター板(踏み切り用の板)を踏む』までをひたすら繰り返します。それができたら手を跳び箱に正しくつく練習、次は跳び箱に乗って両足を開く、最後に着地の姿勢と、動作を一つずつ分解して教えていくんです。そうすれば、どんどん高い段を跳べるようになりますよ。苦手意識から嫌いになってしまうのはもったいない。そうなる前に体の使い方を覚えさせてあげるのが重要だと思います

 覚える速度に個人差はありますが、体の使い方さえ覚えれば、誰でも標準的な運動能力は身に付けられるといいます。ではその「使い方」とはどのようなものなのでしょうか。

<次のページからの内容>
● 勉強と同様、体育にも本来「反復練習」が必要
● 目をつぶって、思った通りの動作ができるか挑戦!
● 「親の運動神経が鈍い=子どもも」という思い込みをなくす
● 「やれば伸びる機会」を逃さず、苦手なことにも向き合って