子どもたちは高学年くらいになると自分や友達の容姿を気にし始めます。自分の顔立ちや体形に自信を失ったり、人の容姿に言及したりすることを親はどう受け止めたらよいのでしょうか。そこで、ルッキズムをめぐる女性の経験について研究している和歌山大学准教授の西倉実季さんと、主に美容のフィールドで活動してきたライターの長田杏奈さんが対談。前編の本記事では、なぜ子どもがルッキズムの影響を受けてしまうのかについて語り合い、後編ではルッキズムにどう対応したらよいかを提案してくれました。

【年齢別記事 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) 【前編】「らしさ」の強要が子どもの自己肯定感をくじく ←今回はココ
(2) 【後編】子の容姿コンプレックス受け入れ美の幅を広げるには
(3) ハーバード現役合格した娘の母が公立主義貫いた理由

最近よく聞く「ルッキズム」。そもそもの定義は?

日経クロスウーマン DUAL(以下、――) オリンピック開会式の演出として女性タレントの容姿を取り上げる案があったことが問題になり、それをきっかけに「ルッキズム」という言葉をよく聞くようになりました。

 わが子には「ルッキズム」を持ってほしくないというのが多くの親の気持ちだと思います。しかし、子どもが高学年くらいになると、クラスやグループの中で誰がかわいい、かっこいいと話題にしたり、自分はかわいくない、太っていると気にしたりすることがあります。

 親がこれまでに「見た目」で人を判断するのはよくないと言ってきたとしても、子どもの心の中には自分や人のルックスを気にする気持ちがあるようです。今回はルッキズムについて詳しいお二人に、なぜ子どもがルッキズムの影響を受けてしまうのかを聞いていきたいと思います。

 そもそも「ルッキズム」というのは、親にとっても耳新しい言葉です。まずはルッキズムの定義を教えてください。

西倉実季さん(以下、敬称略) 「ルックス」に「イズム」がついているので外見主義、外見至上主義と訳されることが多いのですが、もともとは「外見に基づく差別、外見を理由にした差別」という意味です。つまり、外見が魅力的と見なされた人が優遇を受け、そうでない人が不利益を被る現象のことです。論文の中ではルッキズム(lookism)よりも「discrimination based on appearance」が使われることのほうが多いですが、ルッキズムという言葉も併用されます。

 学術研究の多くは、ルッキズムを労働市場や学校教育の中で生じる問題として取り上げています。外見が良い人が採用において有利に扱われるとか、学校の教員が外見の良い子に良い成績を付けるというようなことです。しかし、今の日本ではミスコンなども含めてもっと広い問題に対して使われていますね。

 また、これまでの研究では、ルッキズムは性差別や人種差別などと深く関係していることが明らかにされています。これに対して日本の議論では、ルッキズムとこれらの差別との関連が見落とされがちな傾向があるようです。

長田杏奈さん(以下、敬称略) 西倉さんがルッキズムを研究するきっかけは何だったのでしょうか?

西倉 大学に入学した直後、他大学の男子学生がサークルの勧誘に来ていたのですが、女子学生の中でチラシを配られる人とそうでない人がいて、私はチラシをもらえなかったんです。そのときにいわゆる「顔選抜」だったのだなと思い、ずっともやもやとした気持ちが残っていました。

【次ページから学べるルッキズム問題のエッセンス】
●外見を否定された経験は大人になっても影響する
無意識にこんな語りかけをしていませんか?
 「二重(ふたえ)に生まれなくて残念だね」
 「地黒だね、肉付きががっちりしているね」
 「男の子は強く、たくましくなければね」

●人の外見に安易に言及しないことが大切。まずは親が変わろう
 「笑いを取ろうとするのはよくないよね」

●「かわいい」の根底にあるエイジズムも見直そう
 大人の女性に「かわいい」→中国、韓国では失礼

●自分の外見も人の外見も肯定的に捉えられる子に
 「自分の身体をポジティブにとらえよう」と伝えて