子どもが自立するために必要なのは「自分で考える力」です。さまざまな「思考法」のエッセンスを知り、親子で取り入れることは、子どもの考える力を伸ばすきっかけになるでしょう。デザイン思考について紹介した前記事に続き、今記事では、複雑化する世の中において必要といわれる「システム思考」について、小学生向けの講座を提供しているシステム思考教育家の福谷彰鴻さんと、システム思考教育ファシリテーターの風間紗喜さんに、システム思考の考え方を小学生が身に付けるメリットや、家庭でできる取り組みなどについて聞きました

【年齢別記事 小学校高学年のママ・パパ向け】
(1) まずは30点目指す その姿勢が子の試行錯誤力を上げる
(2) 「根本の問題は何か」に気づく思考法 高学年で育む ←今回はココ

システムとは「つながり」のこと

 「システムというと『プログラミングを教えているのですね』と誤解されることが多いのですが、システムとは、相互に影響し合っている、つながり合ったものを指します」と風間紗喜さん。

 「私たちがこれまで慣れ親しんだ思考法は、『そこに問題が起きた。では、それに対するソリューションを考えよう』というもの。ただ、実際の社会や世界は私たちが捉える単純な『原因』『結果』を超えて、複雑につながり合っています」と福谷彰鴻さん。

 「何かが起きた」とき、人は「起きた出来事」だけに注目しがちですが、実際は「何かが起きているときには、背後にそれを引き起こしているシステム(=相互依存的なつながり)」があります。それがシステム思考の土台となる考え方だと福谷さんは説明します。「例えば、何か悪い出来事があって、その出来事だけに注目して、短期的に『悪いもの』をやっつけても、もし背後にあるシステムが、同じ出来事を繰り返し生み出しているなら、また次の『悪いもの』が現れるだけ。解決はしませんよね」

 「起きた出来事に対して、一時的な問題解決のために手を打つのではなく、その背景に何があるのか、構造(システム)を捉えるところまで考える。それによって、根本的な問題解決のために変化を起こすことができるようになる、という考え方です」(風間さん)

 難しそうに聞こえますが、子どもに問いを投げかけたり、子どもの友人関係の悩みなどに枠組みを使ったりすることで、出来事を俯瞰(ふかん)して、つながりを捉える「考えのクセ」を身に付けていくことは可能だと2人は話します。

 「システム思考」は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の上級講師、ピーター・センゲさんが提唱する『学習する組織』をつくるために必要な柱の1つとして挙げられている思考法です。「もともとは企業組織の課題を解決する目的で広まりましたが、教育への応用が求められ、欧米では、かなり以前から導入されている小学校もあります。特に最近は、自分の感情の扱い方や『思いやり』なども含めた『社会性と情動の学び(SEL)』をシステム思考と組み合わせた『コンパッショネイトシステムズシンキング』として、教育に取り入れようという考え方が広がっています」

 システム思考教育を日本へ紹介している福谷さんは、幼稚園から大学・大学院までの子どもや学生向けのほか、教員などの教育関係者を対象にも教えています。また、風間さんと一緒に、オンラインで小学生向けプログラムも提供しています。「現在、小学2年~5年生の子どもたちが参加して、絵本を活用するなどいろいろな事例を使いながら、物事のつながりや、影響を与え合っている部分を捉える力を高めるという思考習慣を育んでいます

(絵本を使って家庭でも実践できる取り組みについては低学年向け記事「低学年の『背景やつながり考える俯瞰力』絵本で育む」で紹介。ぜひ合わせてお読みください)

 システム思考のアプローチは、大きな課題だけでなく、子ども同士のけんかなど多様な課題に使えるそう。将来、悩みや壁にぶつかったときにも役立つことが期待される「システム思考」のエッセンスを家庭に取り入れる工夫について、福谷さんと風間さんに詳しく聞いていきます。

「システム思考」のエッセンスを学ぶ
【家庭でも取り入れられること】
◆2つの「問いかけ」を日常に取り入れる
◆子どもの友人関係の悩みに使ってみる

 システム思考教育が必要になっている背景について、福谷さんはこう説明します。「コロナ禍にも当てはまりますし、特にSDGs(持続可能な開発目標)や気候変動といった課題が典型的ですが、これらは複雑につながり合った課題です。目の前の出来事だけを見てソリューションを考えても、根本的には解決されません」