毎年約4000人の子どもが受験し、合格倍率は30倍に上るといわれる筑波大附属小学校(東京都・文京区)。最大の特徴は、全国の公立小学校の教育活動に影響を与える研究校として、最先端の教育が提供されていることです。「人と違うことを恐れずに行動できる子ども」の育成を目指して、早くから常識にとらわれない、自由闊達な授業を実践してきました。

日経DUALでは小4クラスで行われた「算数」と「国語」の授業に潜入し、2人の先生の授業を見学させてもらいました。正解に誘導するのではなく、子どもの考える力を「引き出す」先生たちの問いかけには、高学年の家庭学習におけるヒントや親が知っておくべきコツが詰まっています。ぜひ参考にしてみてください。

【年齢別特集 小学校高学年ママ・パパ向け】
(1) 筑波大学附属小 あえて先生が教えない授業とは? ←今回はココ
(2) 筑波大学附属小が実践 失敗にめげない心の育て方
(3) 10歳からの親子関係 口出し過ぎていいことなし
(4) 中学受験 「親のため」と宣言したほうがいい理由

 子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

 9時半から始まった2時限目――まずは、4年生の算数の授業にお邪魔しました。教壇に立つのは、全国算数授業研究会理事であり、思考力が育つ算数の教え方に定評がある盛山隆雄先生です。

 この日4年生に教えるのは、2ケタのかけ算の応用編。かけ算もひっ算も学習した後に、かけ算の性質である「分配法則」や「交換法則」などを使って知識を活用します。

 授業は、先生が子どもに1つずつ電卓を配るところから始まりました。

電卓の「5」が壊れているというルールでスタート

多数の著書があり、教科書の編集委員もされている盛山隆雄先生
多数の著書があり、教科書の編集委員もされている盛山隆雄先生

 盛山先生が、「5のボタンが壊れている電卓を使って、18×25の計算をしましょう」と言うと、「できるよ、できるよ」「せいちゃん、5以外は使えるんだよね?」と、自由に発言する子どもたち。

 筑波大学附属小は教科担任制で、このクラスは盛山先生が担任するクラスだからなのか、子どもたちの先生への呼び方は「せいちゃん」「せいまる」と親しげです。先生も子どもたちを、それぞれファーストネームで呼んでいます。

 隣の席に座る子ども同士が「こうじゃない?」「ああじゃない?」などと軽いおしゃべりをしながら、各人が自分のノートに思い付く式を書いていきます。

 盛山先生は「やり方をどんどんノートに書いてください」と全員に声を掛けながら、子どもたちの様子を見回るように、教室内をゆっくりと歩きます。5分ほどたったところで、「まず、18×25の答えは?」と子どもたちに質問。

 授業開始からわずか数分で、そこここから「450!」という解答が上がってきました。しかし、思考を深める盛山先生の授業はここからが本番です。

<次のページからの内容>
● 子どもの発言したことを問い返す「発問で展開される」授業
● 考える力の“芽”は、創意工夫する中でこそ育つ
● 子どもの多様性を引き出す「全員参加の授業」とは?
● 説明文の「良いところ」を話し合う
● 子どもが進んで話し合い、対話的に解決へ向かう
● あえて抽象的な問いかけをして、自由闊達な発言を促す