データサイエンティストという仕事が注目を集めるなど、データサイエンス力が重視される昨今。AI時代に欠かせない力として、2020年度からの新学習指導要領では、「統計教育」が強化されました。とはいえ、親世代にとっては、専門に勉強したり、仕事で使ったりした経験がなければ、なじみの薄い分野です。データ活用教育の重要性などについて聞いた前編に続き、渡辺美智子さん(立正大学データサイエンス学部教授)に、PDCAならぬ「PPDAC」を意識することの大切さや、日常的にデータサイエンス力を伸ばすために家庭で工夫できることについて聞きました。

【年齢別記事 小学校低学年のママ・パパ向け】
(1) 親も知りたい 必須のデータサイエンスは小学生から
(2) 目標は「使える算数」 PPDACで問題解決力を伸ばす ←今回はココ
(3) 思考力深まる哲学対話、親子で実践する4つのコツ
(4) 「将来の夢」実現のために低学年親ができることは

親子でニュースを見ているときも

 「何気なく見ているスポーツニュースも、本当に正しく理解するには、データを読み解く力が必要です」。統計教育の普及に取り組んできた渡辺美智子さん(立正大学データサイエンス学部教授)は言います。

 「例えば、テレビから、バスケットボールの試合結果のニュースが流れてきました。『○○選手がシュートを8本決めました』と言っています。『へー、とても活躍したのだな』と思っていたら『しかし、(そのチームは)負けました』と続きました。8本というシュート数が多いのか少ないのか、その選手が大きく活躍したのかしなかったのか、『8本しか』『8本も』のどちらの表現が最適かは、その競技の過去の数字のデータを見て、背景を知らないと実は判断できません」

 「統計教育の充実を訴え続けて約20年たちました」という渡辺さん。「算数・数学の試験のために公式や定理を覚える教育ではなくて、実際の生活の中で使うための統計教育をすることが大事です。これからの統計教育で重視されるべき点は、データでストーリーテリングができる力を身に付けること、だと考えています」

 前編で紹介したとおり、2020年度からの新学習指導要領では、統計教育が重視され、小学校算数に「データの活用」領域ができました。「目的に応じてデータを収集、分類・整理し、結果を適切に表現すること」「統計データの特徴を読み取り判断すること」を1~6年生まで毎学年、段階的に学ぶとしています。

 統計的に問題を解決するための「PPDACサイクル」の考え方も学びます。多くの働く親になじみ深いのはP(計画)、D(実行)、C(評価)、A(改善)のPDCAサイクルかもしれません。Dの「実行」が、PPDACサイクルでは「データ」になり ます。「PPDACは、P(問題)、P(計画)、D(データ)、A(分析)、C(結論)からなる、データを用いた問題解決のためのサイクルです。統計的探究プロセスとも呼ばれ、データ(D)を重視する考え方。その言葉自体が登場している6年生の教科書もあります」

 PPDACサイクルの意味を親子で知り、その考え方のエッセンスを家庭内で意識すれば、ニュースを見ているときの対話や、日常生活の中で何か解決したい問題が生じたときの課題へのアプローチが変わってくる、と渡辺さんはアドバイスします。

 例えば、「『毎日学校に持って行くランドセルが重い』などの悩みにもPPDACサイクルを活用できます」。子どもがそう言い出したとしても、「そうか、大変だね」「先生に相談してみたら」といった程度で対話を終わらせてしまう親も少なくないかもしれません。でも、そうした日常生活の「困ったこと」の解決のためにこそ、PPDACサイクルの視点が役立つと渡辺さんは言います。

 日常的に親子でデータについて意識し、家庭でデータサイエンス力を伸ばすためにできる工夫について、次ページから具体的に教えてもらいます。

「データサイエンス力」を伸ばすために家庭で習慣にしたいこと
(次ページから読める内容)

(1)日常生活に出てくる課題を「流さない」
(2)見つけた課題に関して、どんな関連データを集めるか親子で考える
(3)集めたデータから何が言えるか、検討する
(4)「5why」で問題点を掘り下げ、解決策を探る
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