日本では都市部ほど中学校受験をする比率が高く、低学年のうちから塾通いをする子も少なくありません。そうした中で子どもたちから「〇〇塾の△△クラスだから自分はすごい」「東大に行く人が一番偉い」「あの学校は偏差値が高い(低い)」といった言葉を聞くことがあるかもしれません。子どもが幼いうちから階級意識を持つことには、弊害はないのでしょうか。英国のパブリックスクール「ハロウ校」で日本語講師として勤務した経験を持ち、日英欧研究学術交流センターで研究員を務める松原直美さんに聞きました。

【年齢別記事 小学校低学年のママ・パパ向け】
(1) 「親の意向をくもうとする子」に伸び悩みのリスク
(2) 「9歳前後からの親友関係」が子どもの自立心を育む
(3) 東大至上主義も 幼いうちから階級意識を持つ是非は ←今回はココ

小さなうちから階級意識を持つことへの2つの疑問

 日本では都市部ほど中学校受験をする比率が高く、例えば東京都の文京区では、公立小学校卒業生で国立・都立・私立中学校へ進学した生徒の割合は49.9%となっています(令和3年度公立学校統計調査報告書【公立学校卒業者(令和2年度)の進路状況調査編】より)。

 低学年のうちから塾通いをする子どもも少なくなく、子どもたちから「東大が一番」「難関大合格者ほど偉い」「あの学校は偏差値が低い」といった言葉が発せられることも。あるいは親子の会話の中で、そうした会話をしている家庭もあるかもしれません。

 はたして、子どもたちが小さなうちから「入試が難しい大学に合格することがすごい」「偏差値が高いほど偉い」といった階級意識を持ってもいいものなのでしょうか。そこには弊害はないのでしょうか。

 英国のパブリックスクール(私立中高一貫校)で日本語講師を務めた経験を持つ、日英欧研究学術交流センター研究員の松原直美さんは「その疑問には英国のパブリックスクールの教えが参考になるかもしれません」と言います。

 「まず、私自身の考えを述べますと、子どもたちが小さなうちから階級意識を持ち、エリート層を目指すことには2つの疑問を感じます。1つは『東大が一番』という価値観です。これは東大合格者が受験勉強という分野で優れた結果を残しただけであって、『すべてにおいて一番の大学』ということではないと思います。もちろん、受験勉強で結果を収めることも大事ですし、東大の卒業生には優れた研究者の方なども大勢いらっしゃいますが、何を学んで、それを将来どう生かすかのほうがはるかに重要であることは言うまでもありません。

 2つ目は『偏差値が高いほど偉い』という考え方です。これも受験勉強という分野の中での話にすぎません。受験勉強という分野で結果を残すことも素晴らしい能力ですが、人間には必ず向き・不向き、好き・嫌いがあります。子どもたちが自分の向いている分野を見極め、その分野で能力を発揮し、社会に貢献できる人が『偉い』のだと、私は思います。

 子どもたちが生まれたときから『難関大が一番』『偏差値が高いほど偉い』とは思ってはいないでしょうから、周囲の大人が画一的で狭い価値観を押し付けてしまっていないか、一度考えてみてほしいと思います」

 ちなみに、英国のパブリックスクールでは、「『エリート』という言葉は使われない」と、松原さんは言います。歴代英国首相を輩出するハロウ校でも、世界中から集まった生徒を「エリート」とは呼ばないそう。その背景にはどんな考え方があるのでしょうか。

「階級意識」の是非を知る上で、英国のパブリックスクールに学びたいこと

・パブリックスクールでは、エリートではなく「〇〇〇〇」という言葉が使われる
・日本の教育は暗記型の「クイズ」、英国は思考力を養う「exam」
・英国のパブリックスクールで多様な人材が育つ理由
・良い意味での「エリート意識」とは
・親自身の視野を広げるには?