親の支配は子どもを長く苦しませます。その子どもが大人になり、親になったときに、「自分も同じことを子どもにしてしまうのではないか」などとおびえ、適切なしつけもできなくなったりする場合があります。一方、コロナ下で学校生活をスタートせざるを得なかった低学年の親は、自分自身がストレスを抱えながら、新たな環境に慣れない子どもの生活を整え、学習のサポートもしなくてはならず、ついきつい口調で子どもを急かしたり、叱ってしまったりしてしまうことも。そんな自分の態度を、自分自身の親の記憶と重ねて、自分を責めてしまうこともあるでしょう。

支配の連鎖を断ち切り、わが子の成長を適切にサポートしていくためには、どうしたらいいのでしょうか。『毒親』(ポプラ社新書)の著書がある脳科学者の中野信子さんに、教育虐待サバイバーで、就学を控えた女の子のママでもあるライター、本庄葉子が聞きました。

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滋賀の事件は情状酌量で大幅に減刑

 親の過干渉や行き過ぎたコントロールは、支配という形で子どもの心に深い傷を負わせ、子どもから親への暴力という形で返ってくることもあります。今年1月、長年の教育虐待の末、母親を殺害したとして滋賀県の34歳の女性が10年の有罪判決を受けました。彼女が自白をしたことや、特異な環境への情状酌量で一審判決から大幅に減刑されました。

 小学校高学年から母子2人暮らしとなった彼女は、母の悲願だった医学部合格に向けて9年間もの浪人生活を送り続けました。看護師になりたいという願いは母に踏みにじられ、束縛された先の見えない閉鎖的な暮らしの中で、彼女は限界を迎えました。

 彼女が強いられてきた状況は、果たして特異なケースなのでしょうか。親の支配で子どもが追い詰められるケースは、決して珍しくはありません。なぜ、親は子どもをコントロールしようとしてしまうのでしょうか。また支配を受けて育った親が、その負の連鎖を断ち切る方法はあるのでしょうか。脳科学者で自身も親の支配を受けて育ったと公言する中野信子さんに、体内メカニズムの観点から詳しく解説してもらいました。

「しつけ」と「支配」は分けて考える必要がある

本庄 親が子どもをコントロールしてしまうのはなぜなのでしょうか。親による支配を受けて育ってきた人の中には、自分が子どもに同じことをしてしまうのが怖くて、子どもに何かを強いることが一切できない、という人もいます。

中野信子さん(以下、中野) まず、一口にコントロールと言っても、しつけと支配とに分けて考えなくてはなりません。人間は身体的な脆弱性によって、ほかの動物よりも長い年月、親が教育的役割を担わないといけない。子育てにおいては、しつけの範囲でのコントロールは必要になってきますから、教えるべきことは教えてしかるべきです。ただ、それはあくまで建物でいえば「足場」であることを理解しておくことが重要です。

 いずれは子ども自身がその足場を建て直すタイミングが来るのですが、親にとってそれは悲しみを伴うものでもあります。しかし、子どもが自立して、自分で建物を建てるためには、それは必須の作業です。

本庄 いわゆる子離れですよね。それがスムーズにいかず支配してしまう親は何が問題なのでしょうか。

こんな疑問に、中野信子さんが答えます

・なぜ親は子を支配してしまうことがあるの?
・親の支配を受けて育った人が子育てで注意すべきことは?
・支配を受けている子どもがその苦しさを自覚するのはいつ頃?
・夫婦仲の悪さが子に及ぼす影響とは?
・親から支配された経験をプラスにできる子とできない子の違いは?
・「下品な世界」から子を遠ざけることがもたらす「恐ろしい結果」とは?