子どもが保育園に通っている時期は、先生と親との距離が近く、自分の子どもがその日一日、どんな友達とどう過ごしたかを連絡帳やお迎え時の報告などで知ることができます。子どもが園で友達とケンカしても、先生が仲直りするように上手に促してくれたり、そもそもケンカにならないように工夫してくれたりするので、自分の子どもの友達関係で大きな悩みを抱えることもなく、安心して仕事に打ち込むことができた、という方も多いのではないでしょうか。

 ところが、子どもが小学校に入ると、事情は大きく変わってきます。先生は保育園ほど手厚く一人ひとりの子どもをケアしてくれるわけではありません。親が先生に会う機会もぐっと少なくなります。学校で楽しく過ごせるかどうかは子ども次第。友達と上手に付き合う力が乏しいと、様々なトラブルに見舞われやすくなり、子どもは小学校生活を楽しむことができません。

 そこで、低学年や保育園のうちにぜひ身に付けさせてあげたいのが、友達と上手に付き合う力=「友達力」。そのために、家庭でできること、親が心がけるべきことは何かについて、2回にわたってお届けしていきます。19年間の小学校教諭経験があり、『友だちを「傷つけない言葉」の指導』(学陽書房)等、多数の著書がある上越教育大学教授の赤坂真二先生にお話を伺いました。

【年齢別特集 小学校低学年のママ・パパ向け】
(1) 小食や偏食から脱する「やる気スイッチ」の探し方
(2) 栄養偏らず食育も!共働き家庭の外食・中食活用ワザ
(3) 子の「友達力」の基本は親子の絆 家庭を安全基地に ←今回はココ
(4) 人間関係に強くなる 子どもの「回復力」の育て方

 子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

多くの友達と関わる中で子どもは成長する そのためにも「友達力」は必須

 私たちが子どもの頃、「小学生になったら、友達100人できるかな」といった内容の歌詞の歌がありました。その歌に象徴されるように、以前は、子どもたちが意識してたくさんの友達を作ろうと考える傾向にありましたが、「最近は、友達をたくさん作ろうとする子は減っているように感じます」と赤坂先生は指摘します。

 「1990年代のバブル崩壊後、不景気に入ったころから、日本人のコミュニケーション様式は大きく変わってきています。テレビは一家に一台で家族みんなで見ていたのが、部屋に一台になり、個人で見るようになりました。コンビニエンスストアやインターネット、スマートフォンなどと便利なものが増え、人と人とがつながらなくてもさみしくない、むしろ一人でも十分楽しめる環境が整ってきました。

 そのような事情を背景に、子どもたちの意識が変化し、『一人ぼっちになるのは嫌だけれど、たくさんの友達はいらない』という考えが主流になってきています。この傾向は今後、どんどん加速していくように感じます」(赤坂先生)

 確かに、現代においては他人と関わらなくても楽しく過ごせる環境が整っています。でも、そんな時代においても、「たくさんの友達と関わりを持とうとすることは、子どもにとって非常に大切なこと」と赤坂先生は指摘します。

 「子どもは周囲の人をモデルに、模倣しながら成長します。例えば家庭内では、子どもは親や兄弟の模倣をしながら、様々なことを学び、自分の能力を伸ばしていきます。子どもが成長するためには、“模倣”ができるモデルがたくさんいることが大切なのです。逆に、大勢の友達と関わろうとする姿勢を持たず、閉ざされた狭い人間関係だけになってしまうと、模倣できるモデルが減ってしまいます。人は、コミュニティーの大きさに応じた成長をするもの。なるべく大きくて良質なコミュニティーを作っていけるよう、努力したいですね」(赤坂先生)

 とはいえ、現実的には「みんなと仲良くする」ことは、小学生になると難しくなってくるものです。先生が統制を取っていた保育園や幼稚園と違って、小学校では子どもたちが自由に過ごす時間がぐっと増えます。未熟な個性と個性が直でぶつかり合い、うまくいかないシーンも増えるでしょう。そんな時はどうすればいいのでしょうか。赤坂先生から、驚きの答えが飛び出しました。

 「多くの友達と関わることが大切といっても、みんなと仲良くする必要はありません」

<次のページからの内容>
● 「みんなと仲良くする必要はない」。ではどうすれば?
● 「安心できる家庭」であることが大前提に
● 甘やかすのでなく、「甘えさせて」あげる
● 子どもが家でネガティブな感情を出したときの対応が非常に大切