子どもが病気にかかった時に「念のため、抗生剤出しておきますね」という医師の言葉にホッとしたという経験がある人もいるかもしれません。抗生剤は親世代にとっても身近な薬なため、「抗生剤を処方してもらったら大丈夫」と思いがちですが、抗生剤を多用することにはリスクもあるのだそう。小児科医で子どもの感染症に詳しい宇田和宏さんに聞きました。前後編合わせてお読みください。

【年齢別記事 保育園のママ・パパ向け】
(1) 抗生剤必要? 乳幼児期こそ気を付けたい耐性菌リスク ←今回はココ
(2) 乳幼児の抗生剤服用慎重に アレルギーの発症に影響も
(3) 保育園のわが子、「足が遅い」「リズムが悪い」はダメ?
(4) 運動系の習い事 苦手な子の「好き」伸ばす選び方は?

本来効くべき抗生剤が効かない耐性菌

 抵抗力が弱く頻繁に病気にかかる乳幼児期。特に保育園生活が始まると、風邪などに感染する機会が増えます。親としては早くよくなってほしいという思いから、病院で「念のため薬を出してください」とお願いする人もいるでしょう。でも、その「念のため」と処方される抗生剤が問題になっています。

 「抗生剤は今の親世代にとって身近な薬なので、『抗生剤を出してもらったから大丈夫』と安心する人もいるかもしれません。もちろん抗生剤が本当に必要な時は服用すべきですが、そうでない場合に『念のために』と多用することは、子どもたちにとってリスクがあるのです」

 そう話すのは、岡山大学病院の小児科医で、感染症に詳しい宇田和宏さんです。

 「抗生剤とは一般用語で、専門家の間では抗菌薬と呼ばれていますが(以下、抗生剤)、『抗菌』という文字通り、細菌に効果のある薬です。20世紀に抗生剤が開発されたことで、人間はそれまでかかってしまったら祈ることしかできなかった、細菌性によるさまざまな感染症を克服することが可能になりました。

 けれども、抗生剤が世界中に普及する中で、次第に本来効いていた抗生剤が効かない細菌=耐性菌が出てくるようになってしまったのです。以来、耐性菌が出るたびに、新しい抗生剤を開発するも、また数年~十数年後には耐性菌が出てしまうという、いたちごっこが続いています。現段階で、抗生剤のほかに細菌に効く薬はありません。もしこのまま耐性菌が増え続ければ、抗生剤で治せない感染症が増えてしまい、有効な抗生剤のなかった時代に逆戻りしてしまう可能性もあります」

 新型コロナウイルスの出現で、治療薬の価値を痛感している私たちにとって、人類の資産でもある抗生剤を守り、かつわが子を耐性菌から守っていくことの大切さは明らかです。そのために必要なのは、「必要な時には正しく服用し、不必要な服用は避けること」だと宇田さん。

 「もちろん医療関係者の間でも抗生剤への理解は進んでいますが、病気になりやすい乳幼児を持つ親も正しい知識を持ち、共にリテラシーを高めていくことが必要です」

 次のページから親に知ってほしい病原体と薬の関係や、日本の抗生剤使用をめぐる問題点などについて教えてもらいます。