もし寝ている間に子どもが突然亡くなってしまったら…。そんな想像はしたくもありませんが、絶対にないとも言い切れません。「日本では毎年1万人に1人の赤ちゃんが『乳幼児突然死症候群(SIDS)』で亡くなっています」と話すのは、元東京女子医科大学母子総合医療センター教授で、現杏林大学医学部小児科客員教授の楠田聡医師です。

 長年にわたってNICU(新生児集中治療室)でハイリスク新生児のケアに携わり、日本の新生児医療を先導してきた楠田医師に、乳幼児突然死症候群を防ぐために親にできることはないのか、お聞きしました。

【年齢別特集 妊娠・育休中ママ・パパ向け】
(1) 原因不明の乳幼児突然死症候群 リスクの減らし方 ←今回はココ
(2) 低出生体重児と早産児 発達の遅れは個人差の範疇
(3) もし待機児童になったら? 保活の最新事情
(4) “早生まれ”の保活は不利? 保育園以外の選択肢も

 子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

赤ちゃんの死因第4位で、1万人に1人亡くなる疾患

 乳児が原因不明の突然死をする…。そう聞くと恐ろしさばかりが募ってしまいますが、そもそも「乳幼児突然死症候群」とはどういう疾患なのでしょうか? 楠田医師はこのように説明します。

 「今まで特別な病気をしたり、その時点で治療を受けたりしていない赤ちゃんが、主に睡眠中に何の予兆もなく突然死する疾患です。よく混同されるのですが、布団がかぶさったり、狭いところに落ち込んだりして起こる(原因が分かる)『窒息』とは異なり、死後に解剖しても死因がはっきり分からないものが乳幼児突然死症候群です」

 2017年の乳幼児の死因は、第1位が奇形や染色体異常などの先天的な異常、第2位が周産期に起こりやすい呼吸障害、第3位が窒息を含む不慮の事故で、乳幼児突然死症候群はそれに次ぐ第4位となっています。日本では、1年間に生まれる約100万人の赤ちゃんのうち、1歳までに2000人程度が亡くなってしまいますが、そのうちのおよそ100人が乳幼児突然死症候群といわれています。発生しやすいのは生後2~6カ月の乳児ですが、この月齢以外の赤ちゃんでも発生することがあります。

 これまで様々な研究が進められてきましたが、現在でも乳幼児突然死症候群のはっきりとした原因は分かっていません。楠田医師は「正確な原因は不明ですが、赤ちゃんの呼吸中枢や覚醒中枢が未熟なことが原因の一つではないかと言われています」と話します。

 「大人でも、夜中に呼吸が止まる『睡眠時無呼吸症候群』を起こすことが知られていますが、大人の場合には呼吸中枢や覚醒中枢の機能が成熟しているので、脳からの指令で再び呼吸が始まったり、苦しくなって起きたりすることがほとんどです。

 それに比べて赤ちゃんの場合は、呼吸中枢が未熟でもともと呼吸が止まりやすいうえ、覚醒中枢も未熟なため、苦しくなっても目が覚めず、そのまま死に至ってしまうと考えられます」

 乳幼児突然死症候群は原因が分かっていないため、「残念ながら、『こうすれば必ず防げる』という予防法も確立されていません」と楠田医師。それでは、親にできることは何もないのでしょうか?

 次ページからは、リスクをできるだけ減らす方法について見ていきます。

<次のページからの内容>
● 乳幼児突然死症候群を起こしやすくする3つのリスク因子
● 乳幼児突然死症候群を防ぐために親ができる対策は?
● 3つのリスク因子以外に気を付けたいこと
● 呼吸が止まっていても心臓が動いていれば70%が助かる
● 赤ちゃんの命を救う救急蘇生法
● 不安を少なくする保育園の選び方