赤ちゃんやママに何らかの問題が生じ、経腟分娩が難しいと判断されたときに選択されるのが帝王切開です。その割合は病院で25.8%、診療所で14%(2017年、厚生労働省発表)と、分娩方法としては決して特別なものではなく、誰でも経験する可能性があります。健診で異常なしと言われていても、陣痛が始まってから緊急帝王切開になる妊婦は少なくありません。他人事ととらえずに、いざというとき慌てずに対処できるよう、帝王切開の正しい知識を身に付けておきましょう。年間の分娩件数が1804件(2018年度実績)に上る葛飾赤十字産院で、帝王切開に幅広い経験を持つ副院長の鈴木俊治医師に解説してもらいます。

【年齢別特集 妊娠・育休中のママ・パパ向け】
(1) 実は4分の1が帝王切開 緊急時に慌てない基礎知識←今回はココ
(2) 帝王切開のリスクと注意点 術後の回復は大変なの?
(3) 育児疲れの秋バテを湯たんぽとすりこぎで解消しよう
(4) 赤ちゃんにインフルエンザワクチン どうする?
(5) 秋冬に増える赤ちゃんの胃腸炎 感染予防と家庭ケア
(6) 妊娠中のスポーツ どこまでやっても大丈夫?
(7) 妊娠中の仕事の負荷 法律で保護される範囲は?

帝王切開が増えた理由は「医療的に無理をしなくなった」ため

 帝王切開で出産する人の割合は1990年には病院で11.2%、診療所で8.3%でしたが、2017年ではそれぞれ25.8%、14%となり、27年間で倍増しています(下のグラフ参照)。帝王切開率の増加の要因として考えられるのは、「医療的に無理をしなくなったこと」が挙げられると思います。

お産に占める帝王切開の割合は27年間で倍増している。出典は厚生労働省が公開する「平成29年(2017年)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」中の「診療等の状況」にある「表20 分娩件数の年次推移」
お産に占める帝王切開の割合は27年間で倍増している。出典は厚生労働省が公開する「平成29年(2017年)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」中の「診療等の状況」にある「表20 分娩件数の年次推移」

 典型的なのが逆子のケースです。逆子の経腟分娩はリスクを伴いますが、ほとんどのケースで何事もなく出産に至るため、ひと昔前は逆子であることだけを理由に帝王切開を選ぶことはありませんでした。しかし今は、予期せぬ事故が起こるリスクを可能な限り回避するために、多くの施設で帝王切開が推奨されています。実際、逆子だと臍帯(へその緒)が赤ちゃんよりも先に出やすいことが分かってきています。するとへその緒が圧迫を受けて、赤ちゃんが低酸素状態になってしまうリスクがあるのです。

逆子(左)の場合は、リスク回避のために帝王切開を選択することが多い
逆子(左)の場合は、リスク回避のために帝王切開を選択することが多い

 多胎の場合も同様の考えです。双子の普通分娩だと2人目に急変が起こりやすいことが知られているので、今では帝王切開が勧められています。

 母体年齢が上がっていることも、帝王切開増加の背景に影響していると言えそうです。年齢が上がれば子宮筋腫などの婦人科疾患を持つ人が増えます。また、子宮の手術歴のある人は帝王切開を勧められるケースが一般的です。お産のトラブルも年齢が高いほど起こりやすい傾向があります。以上のような要因が複合的に絡み合い、帝王切開が増えていると考えられます。ちなみに、日本では医学的な理由なしに、母親の希望だけで帝王切開を行うことはできません。