産後に夫婦の関係が崩れてしまう“産後クライシス”。テレビ番組で報道されて話題になって以来、「まさにわが家がそうだった!」という人が後を絶たず、今や誰もが知る言葉になりつつある。しかし、この産後2年以内に起こりやすいという産後クライシスは、実は脳科学の観点から見ていくと既に産前から兆候があるのだという。なぜ産後クライシスが起こるのか、脳科学の視点から迫る。

【年齢別特集 妊娠・育休のママ・パパ向け】
(1) 認可園発表シーズン! もし待機児童になったら?
(2) 認可外園にはメリットも 来期の保活に向けた対策
(3) 男女の脳は違う 産後クライシスはなって当たり前 ←今回はココ
(4) 産後クライシスは子どもと父親の間で起きている

 子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

産後クライシスは、妊娠直後から始まっている

「妊娠直後から女性の脳の下垂体は肥大する。毎日変化する女性に引き換え、男性は脳も体もほとんど変化しない」(加藤俊徳先生)
「妊娠直後から女性の脳の下垂体は肥大する。毎日変化する女性に引き換え、男性は脳も体もほとんど変化しない」(加藤俊徳先生)

 産後、出産や子育てを通して、心身の変化や子育てへの疲労で、産後の夫婦関係が悪化してしまうことを「産後クライシス」という。この産後クライシスという言葉が使われ始めたのは、2012年9月。NHKの番組で初めて取り上げられて以来、「私も思い当たる!」と多くの同意の声が上がり、関連の書籍なども出版されてきた。

 ベネッセ次世代育成研究所による下のグラフを、目にしたことがある人もいるのではないだろうか。「配偶者といると本当に愛していると実感する」割合が、妊娠期は夫婦とも74.3%だが、0歳児になると、夫側の愛情が63.9%にゆるやかに下がり、妻側の愛情は45.5%に急下降する。しかも、その後、復活することはなく、2歳児になると、34.0%にまでなってしまう。

 夫婦二人だけのころと違って、赤ちゃんとの生活への変化や体の変化に戸惑いながらも、必死で“お母さん”になっていく女性に対し、子どもの誕生で突然“お父さん”にされたような男性側はなかなかその変化についていけず、夫婦間のギャップが生まれがちだ。それが産後クライシスを引き起こしている。

 「産後クライシスは妊娠中から起こっている」と、脳科学者の加藤俊徳先生は解説する。

 「産後クライシスと言いますが、産前、妊娠中から、その原因は始まっているんです。女性は妊娠すると、脳の下垂体部分が一時的に肥大します。脳には、ホルモンと神経のコントロールを行うという大きく2つの役割がありますが、下垂体はそれに大きく影響する部分なんですね。妊娠することで胸が大きくなったり、母乳が出たりするわけですが、そのような体の変化は脳からの指令によって起きているのです」

 「一方で、男性はというとパートナーが妊娠しても自分の肉体には何の変化もない。妊娠中の10カ月間、体内の変化の差は広がるばかり。赤ちゃんが誕生する時点で、男女の経験や気持ちに大きなギャップが生じているのも当たり前なのです」

<次のページからの内容>
● 女性は妊娠すると、日常生活ですら意識が子宮に向いていく
● 一番の問題は、男性がその女性の変化をきちんと理解していないこと
● 男女の肉体の経験ギャップを埋めるため、男性は努力しないといけない
● 男性は経験を積んで“父親”になるしかない
● 相手(妻)の子育てを受容することも大事
● 妻も育児に夫を巻き込む工夫が必要