愛娘はるかちゃん(当時6歳)の死というつらい経験から、(前編で紹介)「こどもホスピス」の設立を目指して活動する田川尚登さん。イギリスやドイツ、オランダなどにはすでに多くの施設がある一方で、日本の取り組みは遅れているといいます。田川さんに、普及が進まない理由をたずねました。

年齢相応の「子どもらしい」生活を重視 元看護師の遺贈が設立後押し

―― こどもホスピス設立に至った経緯は、どのようなものでしょうか。

田川 私は2003年にNPOを立ち上げ、病気の子どもたちと親が楽しむためのコンサートなどを開いてきました。2008年には横浜市内で、付き添い家族の宿泊施設「リラのいえ」も設立しました。はるかが入院していた時、遠隔地から治療に訪れた子どもの家族が、車の中や病院内のベンチに泊まる姿をよく見ていたからです。子どもの医療費には保険が適用されますが、親の宿泊費や交通費に補助はありません。彼らへの支援が必要だと考えたのです。

 一方ではるかのような、治療の難しい病気の子どもたちを対象に「小児緩和ケア」を提供する施設を作りたいとの思いも強まっていました。ある元看護師の女性からNPOへ「こどもホスピスの建設に使ってほしい」と、多額の遺贈を受けたことがきっかけとなり、具体的な活動が始まったのです。

―― 小児緩和ケアとは何でしょうか。

田川 一般的な緩和ケアは、痛みやつらい症状、精神的な苦痛を和らげ、生活の質を高めるためのアプローチです。ただ子どもは、心身ともに闘病中も発達し続ける点が、大人と大きく違っています。右手がマヒした時、すぐに左手を器用に使えるようになったはるかのように、短い間に能力を伸ばすこともあります。小児緩和ケアは、子どもたちの成長を支えること、そしてなるべく年齢相応に「子どもらしい」生活を送れるよう、サポートすることに重点が置かれています

英国のこどもホスピス「Francis house2018」(写真提供はいずれも田川さん)
英国のこどもホスピス「Francis house2018」(写真提供はいずれも田川さん)