医療からホスピスへの流れが必要 「治療できない=敗北」と考える医師も
―― 横浜市にオープン予定のこどもホスピスは、どんな施設になるのでしょう。
田川 当面は日中、病気の子どもたちに通ってもらって学習や遊びを提供するほか、親が患児に付き添う際のきょうだい児の預かり、家族のメンタルサポートなどを行います。2021年夏に開設する予定で、運営費は寄付やイベント収入で賄うつもりです。
―― こどもホスピスは今、全国に何カ所ありますか。
田川 大阪市で2カ所運営されています。また福岡市や札幌市で設立を目指す団体があり、東京都内にもホスピスを作りたいと動き始めた遺族がいます。少しずつ広がりを見せてはいるものの、活動はまだ始まったばかりです。。
―― 今後ホスピスを増やすために、必要なことは何でしょうか。
田川 主治医などの医療関係者から、家族や患児にこどもホスピスを勧めてもらうという流れを作り、利用者を増やすことです。しかし医師の中には、治療できないことを「敗北」だと考え、こどもホスピスにいいイメージを持たない人もいます。また、小児医療の拠点病院だけでなく、一般病院の医師に知ってもらう必要もあります。
患者に寄り添う立場の看護師さんたちからは、すでに多くの賛同を得ています。このためまず看護師さんたちに小児緩和ケアへの理解を深めてもらおうと、研修プログラムも準備中です。
―― はるかちゃんも脳腫瘍でしたが、重い子どもの病気の中には「小児がん」が大きな割合を占めています。政府は2017年に発表した第3期がん対策基本計画の重点項目に、小児がんを盛り込みました。国の取り組みについてどうお考えでしょうか。
田川 次期の基本計画の中には、小児緩和ケアも盛り込んでほしいと思います。小児緩和ケアに関して日本は、他の先進国に比べて大きく立ち遅れています。医療技術の進歩で小児がんの治癒率は高まり、亡くなる子どもが減ってはきています。しかし今も1万6千人近い子どもたちががんと闘っているとされ、患児と家族、きょうだい児を包み込むケアは依然として必要です。
―― こどもホスピスは、遺族の「グリーフケア」にも役立つのでしょうか。
田川 重い病の子どもたちとその親は、家と病院の往復が生活の大半を占め、旅行や娯楽の機会をなかなか持てません。しかし豊かな経験を積み上げた家族ほど、子亡き後、回復に向かいやすい傾向があると思います。私たち一家もはるかが意識を失う直前、彼女の希望で旅行に行き、楽しく過ごしたことが何物にも代えがたい思い出になりました。ですから私たちはこどもホスピスで、親子に楽しむ機会をたくさん提供したいと考えています。
また遺族はこどもホスピスを訪れ、スタッフと語り合うことで、いつでも子どもとの楽しい思い出に接することができます。それによって、残された家族の気持ちも和らいでいくのです。
―― 病気の子どもを持たない人たちは、何をすべきでしょうか。
田川 病気の子どもを持たない親にこそ、重い病気を持つ子どもが存在すること、そしてこどもホスピスや小児緩和ケアのことを知ってほしいと思います。万が一、自分の子どもに事故や病気が降りかかった時、知識があれば対応は大きく違ってきます。不幸にも子どもの命に期限ができてしまった時も、家族で実り多い時間を、より長く過ごすことができるかもしれません。
取材・文/有馬知子