「ダラダラ仕事」を無くすためには

—— 残業を減らすには、どうすればいいでしょうか。業務量が多くて残業をしてしまうならともかく、ダラダラ仕事をしている人には残業代を支払いたくない、と思うのも当然です。

大川原 経営者はよく「従業員が、指示された時間内に業務をこなさず、無駄に仕事をしている」「ダラダラ仕事をして無意味に残業をするため、その残業代を払わなければならない」と考えがちです。が、この経営者が嘆く「無駄に」「ダラダラと」仕事をしている、ということは、労働契約上では、経営者が労働者に「無駄に仕事をさせている」「ダラダラ仕事をさせている」ということになります。経営者が労働者にきちんと仕事をさせる義務があるのに、それができていないということになるのです。もし、「ダラダラ仕事をしている」と考えている労働者に、未払いの残業代の支払いを求めて裁判を起こされたら、経営者がその裁判で勝つことは難しいでしょう。

 裁判になれば、裁判所から経営者に対して「効率的に業務を進めるため、具体的な業務命令や業務指示を出しましたか?」「残業時間には、どのような指示を出しているのですか?」と問われることになります。経営者は「『効率的に仕事をしなさい』『定時に仕事を終わらせて、残業はしないように』とたびたび言っているが、従業員がその通りにしない」などと反論することが多いですが、この程度の指示では、業務命令や業務指示とは言えません。

 ではどうしたらいいのでしょうか。私はよく、「残業をする社員がいる場合、社長や取締役、役職者などがその社員と一緒に残って、自ら社員の仕事を手伝えばいいでしょう」と言っています。なぜ残業があるのかを経営者が知ることができ、人員が足りないのか、仕事のやり方に問題があるのか、なぜやり方が悪いのか、などを考えることができます。もちろん、自分が早く帰るために、社員がどうしたら早く仕事を終わらせられるのか、を自分ごととして考えることにもつながります。

 また、経営者は社内規則や制度を決めるとき、「こんな規則や制度を認めたら、社員がサボるのではないだろうか」などと懸念します。そのときに頭をよぎるのは数十人に一人いる、モラルが欠如している人だったりしないでしょうか。労務管理は、そういう人を前提に考えるべきではありません。あくまで「きちんと働いてくれる労働者」を対象に考えるべきです。モラルのない、例外的な人を標準にして労務管理を考えるのは、あるべき労務管理を誤ってしまうことにつながり、経済的合理性に反します。

 労働者は、自分の仕事がきちんと評価され、相応の報酬が支払われていれば、完全にサボることはないのではないでしょうか。時々サボっても、その仕事の必要性や緊急性を理解したり、自覚したりしていれば、サボった分を別の機会に取り戻すような働きをするのではないかと、私は考えています。

労務管理は「モラルがない一部の人」を前提にするのではなく、あくまで「きちんと働いてくれる労働者」を対象に考えるべき
労務管理は「モラルがない一部の人」を前提にするのではなく、あくまで「きちんと働いてくれる労働者」を対象に考えるべき