「個人向け国債」という言葉を聞いたことはあるけれどよくわからない、という方も多いのではないでしょうか。そこで、金融アナリストの久保田博幸さんに「そもそも個人向け国債ってなに?」という基本的な説明から、「子育て中の私たちは、どんなものを買ったらいい?」といった具体的なお話まで教えていただきました。

 「まず債券とは、いわば“借用証書”のようなもの」と、久保田さんは解説します。

 国や地方自治体、事業会社などが、資金を調達するために有価証券を発行して投資家からお金を借りる、という方法をとることがあります。「債券」の発行はその資金調達手段のひとつです。

 債券のうち、国が発行するものを国債、地方自治体が発行するものを地方債、事業会社が発行するものを事業債、といいます。お金を借りる側(=国や事業会社など)は、貸している側(=投資家)に、“利払い”といって、利子を払わなくてはなりません。通常は、年に2回(半年に1回)、利払いがある債券が多いです。

 「債券には“償還日”といって、“いつまでにお金を返します”という日にち(=償還日)が決まっています。例えば、現在発行されている国債の期間には、2年、5年、10年、20年、30年、40年といった種類があります」(久保田さん)
 発行されている国債のうち、個人しか購入できない商品を「個人向け国債」といい、最近注目度が増しています。人気の秘密は、ほぼ元本保証の金融商品ながら、大手都市銀行の定期預金などと比べると、金利が優遇されている点です。また、長期を見据えた資産形成に向いている商品であるということも、支持を集めている理由です。

1万円から始められて安心が魅力の個人向け国債

 個人向け国債のメリットは、大きく3つあります。

(1) 1万円からスタートできる
購入単位は、1万円から1万円単位で購入可能です。また毎月募集期間があるため、余剰資金があるときにいつでも気軽に始められます。例えば、お金が必要になるタイミングを満期に設定することを考え、そこから逆算して購入月を選択するという活用方法もあります。

(2) 銀行の定期預金よりも金利が高い
ゼロ金利という言葉を聞いたことがあると思いますが、大手都市銀行の定期預金の金利はその影響をもろに受け、0.01%程度の水準に押さえらていることも珍しくありません(2018年11月末時点)。一般的な国債も同様に10年より短い期間のものは、利回りがマイナスになっているのですが、個人向け国債に限って特別に、0.05%の最低金利が保証されています。つまり現状では、実質定期預金の5倍の利回りとなるわけです。

(3) 実質元本保証! ペイオフ対策にもなる
どんな種類の債券でも、発行者が利子や元本の支払いをできなくなったときは、ただの紙切れになってしまう可能性もあります。ただ個人向け国債の場合は、その保証を行なうのは日本国政府です。利子や元本の支払いは日本国政府が責任を持つため、極めて安心安全な金融商品で、実質元本保証と言っても過言ではないでしょう。また、ペイオフとは、預金を預けている銀行が万一破綻した場合に一定額を保護する制度のことで、日本では元本のうち1000万円+その利息分しか保証されません。そのため、預貯金が1000万円以上ある場合は、万が一のリスクに備えて、1000万円以上の部分を個人向け国債に分散投資しておけば、元本割れするリスクはゼロに近いので安心です。

 上記のようにメリットが多い個人向け国債ですが、一方で、銀行の定期預金と比較すると中途解約のルールが異なります。定期預金はいつでも解約可能な商品がほとんどですが、個人向け国債は、発行から1年が経過するまで、換金ができません。従って、短期の運用には向かないと言えるでしょう。

 「さらに中途解約の際は、1年間分の利子相当分を手数料として差し引かれてしまいます。よほどの事情がない限りは中途解約せず、償還日まで持っておく方がよいでしょう」(久保田さん)。
 ※中途解約について、詳しくはこちら

 ただ個人向け国債には、1万円単位で解約可能という特長もあります。定期預金の場合は、解約するとなると一部の金額だけというわけにはいかず、丸ごと解約しなければならないことがほとんどですが、個人向け国債の場合は、必要な金額だけを現金化することができます。いざというときでも、投資スタイルの変更が最小限で済むのは、隠れたメリットの一つと言えるかも知れません。

10年債の利率が0.1%の大台目前に!

 個人向け国債には3つのタイプがあります。

 ●個人向け国債 10年債(変動金利型)
   利率=基準金利(※)×0.66
 ●個人向け国債 5年債(固定金利型)
   利率=基準金利(※)-0.05%
 ●個人向け国債 3年債(固定金利型)
   利率=基準金利(※)-0.03%

※基準金利とは、個人向け国債の利子計算のために用いられる金利。変動金利の10年債の基準金利は、半年毎に設けられる利子計算期間開始日の前月に行われた10年国債入札における平均落札利回り。固定金利型5年債の基準金利は、期間5年固定利付国債の想定利回り。固定金利型3年債の基準金利は、期間3年固定利付国債の想定利回りとなる。

 固定金利の個人向け国債(3年債・5年債)は、償還日まで当初の金利がずっと変わりません。半月に一度、定額の金利を受け取れます。一方、変動金利タイプは、半年ごとに金利の見直しがされます。少し前までは、超低金利の影響で0.05%の時期が続いていましたが、最近は10年債(変動金利型)の利率は0.09%程度まで上がっており、魅力が増してきています(0.09%は2018年11月末時点の利率。12月募集の1月発行分は0.05%に戻っている)。

 さらに、大和証券など大手証券会社の中には、個人向け国債を購入した人にキャッシュバックを行うキャンペーンを行っているところもあります。例えば大和証券のキャンペーンを利用して個人向け国債10年を1000万円分購入した場合、利息に加えて4万円のプレゼント金額を受け取れる。(詳しくはこちら)。

 「長期金利が少し動いたため、個人向け国債の10年変動金利タイプも金利が上がってきました。10年変動金利タイプは、半年前の10年債の利回りをベースに算出されていて、通常の国債の10年債よりは金利が低いですが、それでも銀行の定期預金の金利よりはかなり高いと言えます。ここ最近はアメリカを代表格に先進国の長期金利が上昇しつつあるので、今後は個人向け国債の利率改善も見込めそうです。実質、元本と最低金利が保証されているうえに、利率の上昇まで期待できるとなると、今後、個人向け国債の注目度は、ますますアップしていくことでしょう」(久保田さん)

 子育て中の人は、教育費や住宅購入資金など、確実に貯めておくべきお金が多いはず。「そういった資金の場合は、あまり大きなリスクを取らないほうがいい」と久保田さん。

 そういう意味でも、安全性の高い金融商品にとして、個人向け国債は一つの選択肢になるでしょう。「手元に10年くらいは置いておける資金があるけれども元本は減らしたくないと思ったら、個人向け国債の10年変動金利を選ぶのも手です。長い目で考えれば、今後金利が上がっていくと考えられるので、今魅力的なのは、3年や5年の固定金利の商品はなく、10年変動金利タイプと言えます。銀行預金の場合は、万一銀行が倒産した場合は、1000万円とその利子だけしか保証されませんが、個人向け国債は何千万円でも保証されるので、その点も安心ですね」(久保田さん)

 資産を守りながら育てられるのが、個人向け国債の特長。子育て世代にぴったりの金融商品と言えるのではないでしょうか。

まだまだある債券。「地方債」も人気

 債券には「社債」「金融債」など発行体によってさまざまありますが、中でも人気なのが「地方債」です。ものによっては、すぐに売り切れてしまうこともあるなど、密かに人気を集めているそうです。

 「学校や病院、公園を作ったり、整備したりするために、地方公共団体が債券を発行するケースがあります。官報には出ているのですが、大々的に発表される前に、地元に住んでいる人の地域愛もあって、すぐに売り切れてしまうことも。償還期間10年で利率が0.2%を超える商品もあるなど、金利面で魅力的な商品も少なくないです。なので、購入したいと思ったら、常にアンテナをはっておく必要があります。ただし、病院を作るといっても、怪しい病院債詐欺などが直接電話でかかってくるケースもありますので、十分気を付けてください。証券会社で確認すると安心ですね」

久保田博幸さん
金融アナリスト
氏名(しめい) 金融アナリスト。1958年生まれ。証券会社の債券部で24年間、国債を中心とする債券リーディング業務に従事する傍ら、1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。専門は日本債券市場の分析。特に日本国債の動向や日銀の金融政策について詳しい。現在、金融アナリストとしてQUICKなどにコラムを配信中。

(文/西山美紀 撮影/稲垣純也)

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