本質を突いた歯切れのよいコメントでDUAL世代にも人気のイラストエッセイスト犬山紙子さん。昨年1月にママとなってからは、ミュージシャンで漫画家の夫・劔樹人さんとの共働き生活を送っています。そんな犬山さんのコラム連載が2019年1月からスタート。今回は連載に先立ち、日経DUAL編集長・片野 温が、社会のこと、母になって変わったこと、夫婦関係について聞きました。

問題がどんどん明るみになって来た。これから変えていかなければ

片野(以下、――) 日経DUALは5周年を迎えました。この5年間は共働き世代にとっては激動の年月で、「保育園落ちた日本死ね!!!」の投稿が話題になったり、女性活躍や働き方改革、ワンオペ育児というキーワードが挙げられます。犬山さんもこの間にご結婚され、ママになりましたが、社会はどんなふうに変わってきたとご覧になっていますか?

犬山さん(以下、敬称略) やっと女性の抱える問題が注目されるようになりましたね。もちろん、女性は結婚したら家に入るものだよね、という「らしさのしつけ」みたいなものはまだまだあります。それに、働きづらい環境が当たり前という現状も。だから、社会の人皆が「女性は働きづらいよね」という問題意識を持っているかというと、まだ難しいところではあります。女性の家事育児時間が圧倒的に長いとか、マミートラックに乗らざるを得ない女性がいるとか、医学部入試の女性差別というような問題は確実にあるんですよね。女性閣僚も圧倒的に少ないですし。

 そしてセクハラ問題。セクハラは女性だけが受けるものではないですが、女性のほうが遭いやすいですし、それに対して「ノー」と言うとそこでキャリアが潰されて、「セクハラなんて受け流せてこそ一人前」みたいなクソバイス(※犬山さんの造語。アドバイスを装った迷惑な言葉)がありました。それを「私はこういうのがいやだと思う」とか「変えていかなきゃ」とネット上で言えるくらいまできたのかなという感覚ですね。

 今は、潜在的にあった問題がどんどん明るみになって来た段階。今すぐ変わらないといけないところですが、本当に変わるのはこれからだと思います

―― 5年前だったら、セクハラや医学部の問題はこれほどまでに広がっていなかったかもしれないですね。

犬山 それはあると思います。「#MeToo」運動の広まりもあって、まだ十分とは言えないけれど、女性の抱える問題に光が当たり始めています。だから今、私たち世代が踏ん張って頑張らないといけないですね。無理して頑張れ、という意味ではなくて、「変えたい」とか「いやだな」とひと言出すことで、それが社会を変える力になるのではないでしょうか

犬山紙子さん。共働きの夫と、間もなく2歳になる長女を育てている
犬山紙子さん。共働きの夫と、間もなく2歳になる長女を育てている

「お金を多く稼ぐほうが気を付けなければ」と感じた

―― 犬山さんと劔樹人さん夫妻は、劔さんが家事育児をメーンで担当しているのですね。

犬山 夫が保育園の送迎から育児と家事をしてくれることが多いですね。1日の仕事量をお互いにトントンにするというのがうちの役割分担になるので、臨機応変にお互いやっています。もちろん、私も仕事のない時間は育児をがっちりやります。家事は、シルバー人材センターに私がやる分を頼んでいます。

 そして夫も働いていますが、主に私が家賃、生活費を担っています。そうなってみて分かったんですが、恐ろしいことに、お金を持ってくる側って、どうしても家庭内で力を持ちやすくなるんです。そうなると、多くの家庭では男性が強くなり、無意識のうちにハラスメントをしたり、上から目線でものを言ったり、妻に家事を押し付けたりする行動が出やすくなる。

―― 自分が家計を支えているんだ、みたいな?

犬山 そう。男女は関係ないんです。私も夫を追い詰めるひと言や不当なことを言ってしまう可能性を感じましたね。権力を持った側が気を付けなければ、ワンオペ育児や家庭内のハラスメントはなくならないと思いました。お金をより持ってくるほうが自覚的に、徹底的に自問自答しないといけません。「ここに稼いできたお金があります。では、このお金は誰のもの?」って考えたら、夫が家事や子育てをしてくれているから稼げたものなんです。2人で稼いだお金という意識をちゃんと自分に叩き込まないと、相手を軽んじる言葉が出てしまう可能性があるんです。