『Jupiter』などのヒット曲で知られる歌手・平原綾香さん。来春、不朽の名作映画の舞台化『メリー・ポピンズ』に主演する彼女は、子どものころに学んだクラシック・バレエの経験が生かせる!と、わくわくしているそうです。聞けば、子ども時代にはバレエのみならず様々な習い事に通い、超多忙だったとのこと。「でもそのすべてが今に生きています」という平原さんに、充実の日々、そしてそれを支えたお母さん、お父さんとのエピソードを伺いました。

平原綾香
東京都出身。洗足学園音楽大学ジャズコースサックス専攻卒。2003年に『Jupiter』でデビュー、歌手として活躍。ミュージカルには14年に『ラブ・ネバー・ダイ』、17年に『ビューティフル』に主演。15年には『サウンド・オブ・ミュージック』製作50周年記念DVDでジュリー・アンドリュースの吹き替えを勤めた。

私はパーフェクトなタイプではない

―― 平原さんは来春、ミュージカル『メリー・ポピンズ』に主演されるのですね。以前にも2本のミュージカルに出演されていますが、もともと舞台がお好きだったのですか?

平原綾香さん(以下敬称略) はい、父(マルチサックスプレイヤーの平原まことさん)がミュージカルのオーケストラピットで演奏したことがあり、子どものころから舞台に親しんでいましたし、実は私のデビューのきっかけもミュージカルなんです。高校の文化祭でミュージカルをやっていたところ、当時の父のプロデューサーが見ていてくださって、デビューが決まりました。ミュージカルは私にとって“人生を変えてくれたもの”なので、こうして出演させていただき、ご縁があることに感謝しています。

―― 『メリー・ポピンズ』はジュリー・アンドリュース主演の名作映画で、裕福だが心がバラバラの一家のもとにどこからともなく子守のメリーが現れ、家族を再び一つにまとめて去ってゆくという物語。以前、『サウンド・オブ・ミュージック』でジュリーの声の吹き替えをされたことのある平原さんにとっては、出演は自然な流れだったのでしょうか。

平原 もちろん『チム・チム・チェリー』などの歌は知っていましたし、映画版も見たことがありましたが、まさか自分が演じるとは思っていませんでした。というのも、主人公のメリー・ポピンズは“すべてにおいてパーフェクト”という人物で、瞬きもしないそうなんです。私は全くそういうタイプではないので、“ふにゃふにゃできないなんて、つらい”と思っていました(笑)。

 でも、勧められてオーディションを受けてみたら、英国人のスタッフの方々から「あなたは歌になると急に自信が出てきますね」と言われて(笑)、「それはそうですよ!」と言っていたら「本当はもっと面白い人なんじゃないかな、それを出していいんだよ」と背中を押されたんです。

 何をもって“パーフェクト”と言うのかはまだつかみ切れていませんが、メリーは常に前向きに子どもたちを見ることができ、一方で自分自身も向上心があって勉強意欲もあり、おしゃれにも気を付けている。そういう心持ちが“パーフェクト”であり、彼女の“魔法”でもあるのかな、という気がします。彼女の諦めない気持ちが、バラバラになった家族関係を修復していくのでしょう。でもそれが実現すると彼女の仕事は終わって、また次の家へと旅立ちます。「もう私は必要ないんだ」という寂しさ、彼女自身の家族への憧れが背景にあるのかな、とも思っています。

―― 一見、魔法使いの楽しいお話に見えますが、家族という大きなテーマのあるお話なのですね。

平原 私は震災でお父さんお母さんを亡くした子どもたちを支援するコンサートに出演したばかりだったこともあって、世の中には色々な家族の形があるということを伝えたいと思っています。この作品でも、コック家政婦のミセス・ブリルも一家のメンバーだし、メリーの盟友のバートも弟のような存在。血のつながりがなくても、心のつながりがあれば家族なんだ、と感じていただけるとうれしいですね。

男女問わず、バレエは習い事としておすすめ

―― 楽しみにしていることはありますか?

平原 この作品にはダンス・ナンバーがたくさんあるんです。実は私は小学校1年生から高校2年まで、松山バレエ団でバレエを習っていまして、踊りが大好き。『Jupiter』でデビューして以来、“巨木のように立って歌う”イメージが強かったと思うので(笑)、やっと踊りまくれる!と思うと夢のようです。