日本の国際化はますます進んでいます。子どもの同級生に日本以外のルーツを持つ子がいるのも、今や当たり前の光景です。これからのグローバルな社会で子どもが自立していくことを考えた時、世界中の人と会話し渡り合っていくための「教養」として、自国の文化や歴史についての知識は必要不可欠です。また、普段は何かと忙しく親子の時間を持ちにくい共働き家族だからこそ、せっかくの旅行は安心できる充実した内容で、親と子の濃密な時間を持ちたいと考えるものではないでしょうか。そんな共働き家族にぴったりな、JR東海ツアーズの「親子で行く修学旅行 京都 奈良」に注目してみました。今回の1泊2日旅は、古都・奈良の生きた歴史に触れる旅でした。

日本の始まりの地「奈良」で歴史を体験

 ツアーの最初に訪れたのは安倍文殊院。「三人寄れば文殊の知恵」の言葉で名高い文殊菩薩様が御本尊で、大化改新の時に左大臣となった安倍倉梯麻呂(あべのくらはしまろ・阿部内麻呂)が安倍一族の氏寺(うじでら)として建立した寺院です。

華厳宗 安倍文殊院 〒633-0054奈良県桜井市安部645 TEL.0744-43-0002(受付時間:9時〜17時、年中無休)。詳しくは<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=378833" target="_blank"><b><u>こちら</u></b></a>
華厳宗 安倍文殊院 〒633-0054奈良県桜井市安部645 TEL.0744-43-0002(受付時間:9時〜17時、年中無休)。詳しくはこちら

 「このお寺は12月から3月の受験シーズンに、『知恵を授かりに』やってくる親子の方が多いんです」と話すのは、副住職の植田悠應さん。文殊菩薩様は、学力向上はもちろん、生きていくための知恵を授けてくださる仏様。学校の修学旅行のコースに含まれることもあり関西地方だけでなく関東や九州からもたくさんの方が訪れる場所なのだそう。

安倍文殊院の副住職、植田悠應さん
安倍文殊院の副住職、植田悠應さん

 安倍文殊院の御本尊の文殊菩薩様は、獅子に乗って4人の脇侍を伴う国宝 渡海文殊(とかいもんじゅ)という姿をしており、鎌倉時代・建仁3年(1203年)に大仏師・快慶によって造立されました。この仏像について副住職の植田さんは「作られた当時から永年にわたり、このお姿で人々を見守り続けています。そうした時を経てきた大きな仏様自身が、言うなれば“生きた歴史”なんです。大きさや迫力などは実際に訪れて自分の目で見てみないとわからないもの。また、歴史の地を親子で訪れ、1300年前の文化に親子で一緒に触れるという体験は、子どもの成長のためにも大切なことだと思います」と話していました。

 安倍文殊院では特別授業として、安倍倉梯麻呂を祀るといわれている「文殊院西古墳」の見学もできました。この古墳は7世紀の中ごろに作られたとされ、国の特別史跡に指定されています。古墳の中に入ってみると石組みの緻密な作りが目の前に広がり圧倒されます。建築技術における古墳内部の美しさは、日本一との定評があるのだとか。造立当時の人々の石加工技術の素晴らしさを実感することができました。

 その後、皆でお茶の作法を学ぶ時間も。参加した子どもたちは、最初は緊張の面持ちでしたが、次第に緊張も和らいだ様子。お茶の作法を通じて、新たな「知恵」を文殊院で授かったようでした。

 来年には元号が新しくなりますが、「大化」は元号の始まりともいわれています。歴史の息づく地に身を置いているときに得る知識は、1300年という年月を自分の身に引き付けて考えられるため、より深いレベルでの理解につながるものではないでしょうか。

真言宗 室生寺派 大本山 室生寺 〒633-0421奈良県宇陀市室生78 TEL.0745-93-2003  詳しくは<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=378834" target="_blank"><b><u>こちら</u></b></a>
真言宗 室生寺派 大本山 室生寺 〒633-0421奈良県宇陀市室生78 TEL.0745-93-2003 詳しくはこちら

 山深く渓谷に囲まれた室生寺。かつて、日本仏教の聖地のひとつでもある高野山は女性の信仰を禁じていましたが、それに対してこの室生寺は女性の参拝を許していたことから、「女人高野」と呼ばれていました。

 訪れた11月の半ばは、ちょうど紅葉の時期。赤や黄色に染まる山肌と、標高の高さゆえのシンとした空気はその場にいるだけでも神聖で、身を清めることができそうです。

 この室生寺で、参加者は「散華(さんげ)」の色付け体験をさせてもらいました。散華とは蓮の花びらを模した法要時に使用する道具で、場に散らすことでその空間を清めるのだそうです。子どもたちも色付けに集中し、楽しむ様子が見られました。

散華の色付け体験。親子で一緒に色ぬりできる貴重な時間に。
散華の色付け体験。親子で一緒に色ぬりできる貴重な時間に。

総務主事の山岡さんは「お寺へのお参りが少なくなっている現代に、仏様を大切にするという行為はとても大事。それはすなわち、自分はなぜここにいるのかを考え、ご先祖様と自分とのつながりを考える機会です。人と人との関係が希薄になってきた現代だから、より一層、自分のご先祖様のことを考える時間は大切だと思うのです」と語られました。

室生寺の総務主事、山岡淳雄さん
室生寺の総務主事、山岡淳雄さん

 そうした思いもあり、この散華の色付け体験は仏教に触れるきっかけづくりとして3年ほど前から始められたものなのだとか。親子連れや外国人の方々に人気の体験プログラムとなっているそうです。

 散華の色付け体験のあとは、僧侶の案内で国宝の「金堂」を拝観。美しい中尊の釈迦如来立像や十一面観音菩薩立像、私たちの生活でなじみ深いお地蔵様(地蔵菩薩立像)についての解説をして頂きました。

 「お地蔵様は極楽浄土と現世を行き来できる唯一の仏様なのです。でも、実は裏の顔を持っていて、それが閻魔大王なんだそうです。日本に一番多い仏様は、道端でみんなのことをよく見ているそうですよ」と、思わず背筋が伸びてしまうようなお話も。

 身にしみるお話を身構えることなく僧侶から聞くことができるのも、このツアーの醍醐味かもしれません。



眞言律宗 海龍王寺 〒630-8001奈良県奈良市法華寺北町897 TEL.0742-33-5765  詳しくは<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=378835" target="_blank"><b><u>こちら</u></b></a>
眞言律宗 海龍王寺 〒630-8001奈良県奈良市法華寺北町897 TEL.0742-33-5765 詳しくはこちら

 日が落ちてから訪れたのは海龍王寺。本来の参拝時間外に特別に拝観させていただきました。照明が落ちた中、和ろうそくのちらちらと揺れる炎の灯りに御本尊が照らし出され、明るい中で見るのとはまた違った厳かな雰囲気に包まれていました。

 海龍王寺は飛鳥時代に創建された寺院。平城京遷都後、藤原不比等の邸宅に残されていたものが、不比等の死後、娘である光明皇后がこの邸宅を相続し、後に遣唐使として唐から無事に戻ってきた玄昉(げんぼう)を住職としました。

 玄昉は遣唐使として唐に渡り、海龍王経を唱えて嵐を乗り越え帰国したという逸話が残ることから、この寺院は「海龍王寺」と呼ばれるように。その後、玄昉は聖武天皇と光明皇后のために祈り続け、また、玄昉が無事に航海を乗り越えたことにあやかって、遣唐使の航海安全祈願をするようになった経緯があるため、現在でも、海外旅行や留学などで海を渡る多くの方が安全を祈願するために訪れるそう。

 海龍王寺の住職の石川重元さん曰く、「本来は、1日の中で一番静まっていて願いがよく届く午前3時から2時間ほど祈りを捧げているんです」。祈りを大切にしている寺院ということがよくわかるエピソードです。また、お話の際には祈りの際に使用する仏具を子どもたちに触らせてくれ、実際に持った女の子が「だんだん重く感じた」と感想を述べるシーンも。

海龍王寺の住職、石川重元さん
海龍王寺の住職、石川重元さん

 「世の中には、実際に触れてみないとわからないものが多く存在します。音を聞く、お経を聞く、その空気感を肌で感じるという経験を通じて、誰も教えてくれないことを学べるものだと思うのです。日本人にはもともと信仰心があると思います。しかしその信仰心を呼び起こす機会があるかどうかでその人の世界は変わります。そして何より、本物だから心に響くのです」(石川重元住職)。

 和ろうそくの炎が揺れる薄暗くなった本堂の中で、背筋をピンと伸ばして住職の話を聞いている子どもたち。その姿に、普段とは違う非日常に触れて成長したことを垣間見た気がしました。

 日本は「侘び寂びの文化」といわれることが多いですが、どんなものが「侘び」「寂び」であるかは、実際に見たり触れたり体験しなければ理解するのは難しいもの。今回の訪問で、子どもたちも日本独特の「侘び」「寂び」とは何かを、少しでもつかめたのではないでしょうか。そうした経験はのちに、例えば、同じ仏教を信仰する海外の寺院を拝観した際などにふと、思い出されて更なる知識の深化につながるのではないかと思うのです。