世界遺産を訪れ、伝統文化に触れる

 親子で行く修学旅行の二日目は、元興寺へ。

 日本で最初の本格的な伽藍配置の法興寺(飛鳥寺)が、飛鳥の地から奈良の平城京への遷都で現在の場所に移転し、寺名を「元興寺」としたのが現在のこのお寺の始まりです。移転の際、飛鳥時代の日本で最初に作られた瓦もこの地に運ばれ、今でも極楽堂(本堂)と禅室(いずれも国宝)の屋根の一部に使われているそう。屋根の瓦の色が他と異なっていることから、その瓦の存在を確認することができます。

眞言律宗 元興寺 〒630-8392奈良県奈良市中院町11  TEL.0742-23-1377  詳しくは<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=378836" target="_blank"><b><u>こちら</u></b></a>
眞言律宗 元興寺 〒630-8392奈良県奈良市中院町11 TEL.0742-23-1377 詳しくはこちら

 住職の辻村泰善さんは、「極楽堂は僧房といって、お坊さんが学んだり寝泊まりしていたところでした。さらに、もう1つの禅室は、心を鎮めるトレーニングをするお部屋として使われていたとされています」と、国宝の1つの「極楽堂」がどのような使われ方をしていたのかを解説してくれました。

元興寺の住職、辻村泰善さん
元興寺の住職、辻村泰善さん

 拝観の後は、スタッフの方の説明やアドバイスを受けながら、今から約1300年前の奈良時代の瓦を用いて、和紙にその模様や形を写し取る「拓本」に親子で挑戦!

 拓本は、まず瓦の上に和紙を置いて霧吹きで濡らすところからスタートします。少し乾き始めたところで、乾いたタオルを上からかぶせて紙を瓦に押し付けて密着させます。こうすることで細かなところまで写しやすくなるのです。

 その後、てるてる坊主のような形の大小の「タンポ」という道具を使って適量の墨を取り、紙の上にポンポンと叩くように墨をのせていきます。均等にのせるのが難しいそうで、スタッフの方がそれぞれのテーブルを回って手ほどきしてくれました。

 墨をのせて拓本が取れれば、あとは、瓦から和紙をはずして再生紙に挟み、シワを伸ばして乾かせばできあがり。また、乾いた拓本には元興寺の印を入れてくれ、記念品としてもらえます。

奈良時代の瓦で拓本体験。簡単そうに見えてなかなか難しい作業に、親子で夢中になっている参加者も
奈良時代の瓦で拓本体験。簡単そうに見えてなかなか難しい作業に、親子で夢中になっている参加者も

 普段の生活の中ではなかなか体験できない「拓本」。伝統的な拓本の作業に触れることができた子どもたちの中にはいずれ、こうした伝統文化継承の道に歩みを進める子も出るかもしれません。

法相宗別格本山 喜光寺 〒631-0842奈良県奈良市菅原町508 TEL.0742-45-4630  詳しくは<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=378837" target="_blank"><b><u>こちら</u></b></a>
法相宗別格本山 喜光寺 〒631-0842奈良県奈良市菅原町508 TEL.0742-45-4630 詳しくはこちら

 次の訪問場所は喜光寺(きこうじ)。もともとは菅原寺(すがはらでら)という寺院名でしたが「聖武天皇がこの寺に参詣された時に御本尊から不思議な光が放たれ、それを喜んだことから喜光寺という名前になったと伝わっています」と、今の寺院名になった由来を副住職の高次喜勝さんが解説してくださいました。

 また、喜光寺の開祖となった行基菩薩について高次さんは「非常に土木や建築に対して知識があり、一方で慈悲深い行いに民衆から厚い信仰を集めました」とも。こうした行いによって聖武天皇の信頼を得、行基菩薩が東大寺大仏造立の際に協力を求められることになったのは想像に難くありません。また、東大寺の大仏殿はこの喜光寺の本堂を参考にしたという言い伝えがあるそうで、そのために喜光寺は「試みの大仏殿」として知られているのだそうです。

喜光寺の副住職、高次喜勝さん
喜光寺の副住職、高次喜勝さん

 喜光寺の由来について一通りの説明を受けた後は、写経体験です。

 写経というとすべて漢字で書かれている「般若心経」を連想する方が多いと思いますが、こちらで行ったのは「いろは写経」。いろは歌を中心とした200文字足らずの写経で、仮名文字が多いので子どもでもチャレンジしやすいそう。また、筆も墨も地元の奈良産のものを使用しており、他では体験できない内容となっています。

 「日常生活の中で時間をかけて何かに集中することが難しくなっている現代で、非常に集中力を必要とされるのがお写経です。非日常というべき体験ができるのは貴重だと思います。また墨をすることで落ち着き、書きにくい筆を使うことによって上手な字を書けるようになるものです。このお写経を通じて、時間をかけて集中する楽しみを見出してほしいと思います」(高次副住職)。

初めての写経体験に誰もが真剣です
初めての写経体験に誰もが真剣です

 喜光寺では普段から写経体験を行っているため、親子3代で体験しにいらっしゃるご家族もいるそう。「集中して行うので脳トレーニングにもいいのではないかと思う」と高次副住職。

 歴史や文化を知るのみならず、こうした体験を通じて得た集中力は、普段の生活でも役立ってくれるはずです。

奈良の伝統料理「柿の葉ずし」の老舗「総本家平宗」で柿の葉ずしの手作り体験をしました。<br>総本家平宗 奈良店 〒630-8374奈良県奈良市今御門町30-1 TEL.0742-22-0866  詳しくは<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=378838" target="_blank"><b><u>こちら</b></u></a>
奈良の伝統料理「柿の葉ずし」の老舗「総本家平宗」で柿の葉ずしの手作り体験をしました。
総本家平宗 奈良店 〒630-8374奈良県奈良市今御門町30-1 TEL.0742-22-0866 詳しくはこちら

 お昼は「総本家平宗」奈良店で「煮麺膳(にゅうめんぜん)」をいただき、その後はこのお店で奈良の伝統料理の「柿の葉ずし」を参加者全員で作りました。

 海の恵みである魚、山の恵みである柿の葉、地の恵みであるお米に感謝し、愛情を込めて握って、真心を込めて柿の葉で包んだお寿司が「柿の葉ずし」。総本家平宗では、「包むという優しい日本の文化に触れて、こんなお寿司があるんだと知ってもらえたら」という思いで手作り体験を行っているそう。参加した子どもたちの中には「この体験が一番楽しみだった」という子もいて、作業に打ち込む姿は真剣そのもの。寿司作りから箱詰めまでを自ら行い、できあがったものはお土産として持ち帰りました。

 総本家平宗は文久元年(1861年)創業の老舗。そんな老舗で伝統料理作りを教えていただくことは、大人でもなかなかない貴重な機会といえます。まして親子で経験できるとなれば、親子の一生の思い出になるに違いありません。

華厳宗大本山 東大寺 〒630-8587奈良県奈良市雑司町406-1 TEL.0742-22-5511  詳しくは<a href="http://h.nikkeibp.co.jp/h.jsp?no=378839" target="_blank"><b><u>こちら</u></b></a>
華厳宗大本山 東大寺 〒630-8587奈良県奈良市雑司町406-1 TEL.0742-22-5511 詳しくはこちら

 現地のガイドさんの案内のもと、最後に拝観したのは東大寺。

 奈良といえば東大寺を思い浮かべる方が多いでしょう。東大寺は、世界から注目される日本の誇れる文化財。だからこそ、しっかりと見て、感じたことを自分の中で言葉として持っておくべき場所の1つでもあります。なぜなら教科書や書籍から、南大門や大仏様、大仏殿が大きいということを知ることはできても、実際に見てみないことにはその大きさや迫力を理解しづらいもの。体感を伴わない知識は身に付きにくいのも事実です。

 また、こうした大きな大仏様が造立された「奈良時代」の時代背景を理解するのにも、直接行ってみる経験は重要。奈良時代は平城京遷都や律令制の開始などの華やかな時代であると同時に、政変、干ばつ、凶作、飢饉、大地震や病の流行など、災害や国難の相次いだ時代でもあるのです。時代背景を知ることで、見えてくる景色も変わってくるはずです。

 ガイドさんの説明を聞きながら、こうした文化財を見て感じ、奈良時代に思いを馳せる経験は、親子で行く修学旅行のラストを飾るにふさわしいといえるでしょう。この日の拝観者の中には外国人の方の姿が多かったのも印象的。ここで得たものは、「子どもたちが世界で活躍する際にきっと役立つ」と強く思わざるを得ませんでした。

 数多くの貴重な体験ができたこの旅は、まさに「修学旅行」。数々の訪問地で、実際に見て、触れて、体験して得た知見は、「親子で一緒に」というあたたかな思い出と相まって、子どもたちの記憶に深く刻まれることでしょう。そして、それが礎となって、大きく豊かな成長へと実を結ぶ時がやってくるに違いありません。

 その「時」がいつやってくるのか、楽しみでなりません。

現地で見て、聞いて親子で学ぶ、心に残る旅『親子で行く修学旅行』

『親子で行く修学旅行』は、JR東海ツアーズが提供する人気のツアー。教科書だけではわからない「生きた歴史」を学び、旅を通して成長する「旅育」体験ができます。今回訪れたのは奈良ですが、京都や伊勢志摩を訪れるツアーも。詳しくはJR東海ツアーズのWebサイトでチェックを。