日々、忙しく過ぎていく共働きファミリーの毎日。仕事、学校、保育園など、日中それぞれの場所で頑張っている家族が平日の夜や休日に集まってくるのがLDKです。そこではごはんを食べながら今日あったことを報告したり、次の休みの計画を立てたり、子どもの宿題を見てあげるなど、一緒のことをしています。ところが、最近、デュアル家族のリビングでの過ごし方、いえ、LDKの使い方に変化が起きているのだそう。そんな実態や、疲れを癒す空間づくりの工夫を積水ハウス住生活研究所所長の河崎由美子さんと、同研究所の植山生仁さんに聞きました。
リビングはくつろぐだけではない。一緒にいるのに、思い思いのことをしている
最近、家族が同じ空間にいるのに、やっていることは全員バラバラということはありませんか? 例えば、子どもの一人が遊びに熱中している横で、もう一人は読書。親は昼寝をしたり、キッチンで趣味の料理中。読書も昼寝も自分の部屋でもできるのに、どうしてか皆リビングにいる……。
「実はこれ、今どきファミリーにはよくある風景なのです」
こう解説するのは積水ハウス住生活研究所の河崎由美子さんです。「住めば住むほど幸せ住まい」をキャッチフレーズに、安心・安全・快適の先にある住まいの価値を研究している河崎さんたちの研究にはこんなデータがあります。
だんらんを最も重視する一方で、自分自身の疲れを癒しリラックスする時間も大切にしたい。そして、一緒にいるときにはだんらんを過ごす以外に、思い思いのことも行っているのが今どきファミリー。何をしていても、その場所はリビングがメインになるのです。
河崎さんは、日本人は住まいを柔軟に使う力が高いともいいます。「例えば、ダイニングテーブルがあるのに、リビングで夕飯をとっている家族が私たちの調査で36%もいました。子どもが小さいから、テレビを見ながら食べたいから、食べた後もゆっくりできるからなどが主な理由です。家でゆっくりできる時間が短いからこそ、くつろいでごはんを食べたいという家族が増えているのでしょうね」
デュアル世代が子どもの頃には間取り上の「LDK」といえば「リビングはくつろぎ、ダイニングは食事、キッチンは調理」というように、それぞれの空間を単機能でとらえていました。しかし今やリビングでごはんを食べている人が3割以上もいる。リビングの使われ方に大きな変化が出てきているのです。
LDKの発想はもう卒業。新時代のリビングには心地よい距離感を確保しよう
「住まいを考える際にリビング、ダイニング、キッチンを単機能で考えるのはもう限界がある時代になっています。リビングはくつろぐだけでなく、家族の様々なシーンを受け止める空間になっています。これからはリビングという空間を過ごし方を縛らない多用途空間ととらえ、それぞれの家族で、自分たちが快適に健やかに過ごせる“幸せリビング”を作っていく必要があるでしょう」。河崎さんは新時代のリビングの役割と住む人がすべきことについてこう話します。
新時代のリビングでは家族がだんらんするだけでなく、思い思いのことをしています。その際に必要なのがお互いを干渉しない心地よい距離感です。「その距離感を保つには、空間にある程度の広さが必要です。一方、家族の気配やつながり感も大切ですから、壁や柱などの仕切りはできるだけないほうがよいでしょう」と河崎さん。新時代のリビングは壁や柱のないシンプルな大空間が理想といえそうです。
新時代のリビングに必要な要素
・思い思いのことをするときに干渉しあわない“心地よい距離感”
・心地よい距離感を保てる広さの確保。広さは20畳以上が理想
・家族の気配を感じられる、ゆるやなかつながりを生み出す仕切りの排除
家族がお互いに〝心地よい距離感″を得るにはどのような方法があるのでしょうか。河崎さんは〝居どころ″を感じられる仕掛けを作るとよいといいます。
「例えば、ベランダや庭に面した景色の良い窓辺にソファを置いて夫婦でゆっくり話せる場所にする、部屋の隅を本棚でゆるく仕切って読書コーナーにする、テレビを置いたコーナーはおやつを食べてもOKにして、子どもが遊んだり、家族みんなでワイワイDVDを見られる場所にするなどです。料理が好きなら、セパレートキッチンにしてこだわり調理ができるようにしてもいいですね。こうすることで、ひとりで過ごすときも家族のだんらんも、共に豊かな時間になり、わが家らしい幸せリビングが実現できるでしょう」