これからの時代に必要とされるのは、あらかじめ決められた正解を求めるだけの力ではなく、自ら考え、新しいものを創り出す力――70年以上の歴史を通して、創造力を育む教育に取り組んできた桐朋女子。同校の教育の特徴をよく表しているのが、社会科で実践している社会科見学だ。10月24日に行われた「都内見学」に同行し、同校の取り組みに迫った。

自ら体験したことをレポートにまとめることで、考える力を養う

 桐朋女子の社会科では、実際の社会の現状に問題意識を持ち、自ら学習する「問題解決型」の学習を実践している。日々の授業の中で「なぜ」「どうして」を自分たちで考える機会を多く設けており、中1の地理では、身近な地域である学校がある調布から東京、関東、日本、アジア、世界と同心円状に視野を広げ、学びを深めている。また、地図や統計資料などから読み取る力を養ったり、自分の力で地図を作成したりすることにも力を入れてきた。

 加えて、教室を飛び出して、自分の目で見て、聞いて、考える経験も段階的にカリキュラムに組み入れており、考えたことをレポートにまとめる作業を繰り返すことで、考える力を身につけられるよう工夫している。

 入学後すぐに行われるのが、調布駅から深大寺まで約5㎞の道のりを歩く「武蔵野巡検」。農園、新旧の甲州街道、水田、武蔵野台地、中央高速自動車道など、ポイントごとに社会科教員が説明を加えながら、「見て」「聞いて」「考える」を経験する。その後、感じたことをもとに各自テーマを決め、原稿用紙8~15枚のレポートを作成していく。

 武蔵野巡検の次の社会科見学が、10月24日に行われた「都内見学」だ。どの辺りを回るかというと、新宿副都心や赤坂迎賓館、日本橋や銀座、東京港やお台場など東京の都心部を見学する研修である。今回は、日本橋、銀座の実地研修をレポートする。

 日本橋について、日本銀行本店前で、社会科担当の吉崎先生が、『銀行の銀行』と呼ばれる日本銀行の特徴や役割をわかりやすく説明。生徒たちは事前に配られたしおりに気づいたことを書き込みながら、先生の説明に耳を傾けている。

 次に足を止めたのが三井住友銀行日本橋支店。「この建物を見てどんな印象?」吉崎先生の問いかけに「西洋風でがっちりした感じ」との答えが。「そうだね。いつ頃できたんだろう。これはね…」生徒と会話しながら、このあたりが関東大震災で焼け野原になったこと、そのため被災した人たちを元気づける建物をというような意図が込められており『復興の象徴』と呼ばれることなどが説明される。実際に建物を見ながらの説明だけに、生徒も理解しやすいようだ。

 中央通りに出て三越本店前。三越の名の由来や商売が成功した理由などの説明の後、日本橋へ。実際の道路元標は道の真ん中にあるため、橋の横に立つレプリカの道標の前で、江戸時代の五街道や今の国道の起点であることなどが話されていく。レプリカの道標の左右には、各都市までの距離を示した石板があり、「しおりに書き込みましょう」との先生の呼びかけに、生徒たちも積極的に応じている。道をわたり日本橋魚市場発祥跡の碑の前で、魚河岸の始まりなどの説明を受けた後、バスで銀座一丁目まで移動。この後は1時間の実地調査だ。

生徒がテーマを決め、より深く観察

 銀座の商店街実地調査は、生徒一人ひとりが実施。道の両側にある商店を観察、店の名前、扱う商品の種類、建物の間口や高さなどを調べ、商店街実地地図を作成していく。さらに「客層」「歴史」「交通」など興味のあるテーマについてより深く調査。一定の時間内に店に入る人数をカウントする人、間口の幅を歩数で計測する人、建物の色やウインドウに注目する人…商店街の1区画を2往復以上して、生徒たちは観察を進めていく。「1往復目より、2往復の方が、たくさん気づきがあった」「家の近くの商店街と比べて若い人やカップルが多い」「古そうだけど、いつ頃できたのかな。どうやって調べればいいんだろう」。生徒同士で話し合いながら、観察を続ける生徒たち。1時間の実地調査の時間はあっという間に過ぎた。

 今回の実地調査は外観からの観察のみなので、いわば下調べ。より詳しい調査のために生徒たちは再び銀座へ足を運ぶという。最終的に生徒は地元もしくは学校のある仙川の商店街と銀座の地図を同縮尺で作成し、共通点や相違点を調べてレポートを作成し、冬休み明けに提出する。

 「たとえば同じ紳士服の店でも、量販店と老舗専門店との違いに気づけるといいですね。定礎を見ればその建物が建った時代がわかるけれど、それに気がつくのも学習になります。『どうやったら知ることができるんだろう』と考えるのも大事な勉強です。自分で考え、調べることで、生徒たちは物事を自分の問題としてとらえられるようになります。さらにレポートを作成することにより、筋道を立てて考える力やわかりやすくまとめる力が培われる。社会科の授業を通して、そうした力を身につけて欲しいと思っています」と吉崎先生は言う。小学校の時は社会科が苦手だったり、嫌いだったりしたけれど、中学の授業を受けて社会科がわかりやすくなった。好きになった。同校にはそう口にする生徒がとても多いそうだ。単にキーワードを覚えるだけではない、実感と結びついた学びが、こうした感想を生み出しているのだろう。

大学入試、さらにその後につながる桐朋の『自主学習』

 同校の社会科のカリキュラムには、その後も社会科見学・レポート学習が用意されている。中1の春休みには、郷土の歴史を調査する宿題。中2では江戸東京博物館見学、中3では新聞レポートとコース別社会科見学。事前学習→見学・観察→レポート作成を繰り返す中で、生徒は自らの「なぜ」「どうして」をきっかけに、自分なりの問題探究を深めていく。さらに高校では発表学習が加わり、レジュメづくりやプレゼンテーション能力などが磨かれていくという。「大学入試改革で創造力や表現力が重視されるようになりますが、本校の生徒は十分対応できる力を身につけています。また、ほとんどの生徒が高3までに自分の進路を決めている。〝自分〟を強く持つ生徒に育ってくれたことを誇らしく思っています」(吉崎先生)

 桐朋女子の伝統である『自主学習』の精神は、生徒一人ひとりにしっかりと受け継がれているようだ。

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