重症の場合は鼓膜を切開すると、痛みや熱が引き、聞こえが良くなる
さらに悪化して、鼓膜全体が腫れていたり、耳だれが出ているような場合は、鼓膜を切開することになります。
「切開を嫌がる親御さんもいますが、切開すると痛みがスーッと引いていき、熱も下がるので、子ども自身も親御さんもラクになります。切開して膿を出してからのほうが、抗生剤の服用期間や量も少なくて済みます」と、工藤先生。
膿がたまっていると耳の聞こえも悪くなりますが、切開することで聞こえも良くなるといいます。
「太鼓は中が空洞になっているため、たたくとよく音が響きますよね。鼓膜も同じです。ところが、重症の急性中耳炎は太鼓の中に膿が溜まっているのと同じ状態なので、音が響きにくくなり、聞こえが悪くなるのです」
「切開って痛くないの?」という疑問については、工藤先生はこう答えます。
「鼓膜の痛みが強いため切開する痛みは気にならないだろうと、麻酔なしで切開してもよいと切開する見解もありますが、当院では液体麻酔を使っています。15分ぐらいで効くのですが、いざ切開するときには、頭をしっかり支えられてもやっぱり泣く子が多いです。しかし、前述したようにその後はスーッと痛みが引くので、機嫌もよくなります」
「切開した後は耳だれが出てくるので、綿を入れます。家庭では、耳だれで綿が汚れたら取り替えるようお願いし、抗生剤を処方します。鼓膜は翌日か翌々日には塞がりますが、耳だれが出ている間は通院して見せてもらいます」
急性中耳炎の原因となる細菌は、主に肺炎球菌とインフルエンザ菌です。肺炎球菌が原因となる場合は、ペニシリン系の薬が効きますが、インフルエンザ菌が原因の場合には、効きにくいことがあります。そのため、耳だれが出ていたり、切開して膿が出た場合は、まずペニシリン系の薬を処方し、一方で耳だれや膿を培養検査に出して菌の種類を特定します。
ちなみに、この「インフルエンザ菌」は「インフルエンザウイルス」とは異なり、「インフルエンザ菌(非莢膜型)」に代表される細菌のことです。「Hibワクチンの予防接種をしていても、急性中耳炎になるの?」という疑問を持つパパやママがいるかもしれませんが、「Hibワクチンの効果があるのは、あくまで莢膜型インフルエンザ菌による髄膜炎に対してです」と、工藤先生は説明します。
「インフルエンザ菌には莢膜型と非莢膜型がありますが、そのうちHibワクチンで髄膜炎を予防できるのは莢膜型のインフルエンザ菌による場合です。耐性菌も増えているため、ペニシリン系の薬が効かない場合も少なくありません」
●重症の場合
・鼓膜を切開する
・耳だれが出ている間は通院する
・まずペニシリン系の抗生剤を処方し、培養検査の結果次第では薬を替える