戸田恵子さんといえば声優、女優として知られています。今年、還暦を迎えた大ベテランですが、日経DUAL読者には『それいけ!アンパンマン』の“アンパンマンの声優さん”というイメージが強いかもしれません(世代によっては『機動戦士ガンダム』のマチルダを思い浮かべるかも)。
 そんな戸田さんが10年間ジェネラル・ディレクターを務める映画祭「キネコ国際映画祭2017」が、2017年11月2日(木)~6日(月)に開催。子どもたちのために作られた世界中の映画を、子どもたちのために上映するというこの映画祭に、戸田さんは「全くのボランティアで参加しています」といいます。自身の舞台がありながらも、時間を作って映画祭で生吹き替えをするという、その「子どもたちに見てほしい映画」への情熱、はたまた「子どもたち」への気持ちはどこからくるのでしょうか。
 戸田さんがアンパンマン役を務めることで気付いた「子どものパワー」とは?

やなせたかし先生が亡くなって、大きな傘に守られていたことに気付いた

──戸田さんと言えば、アンパンマンのイメージが強いのですが、長年務める中で、子どもたちは変わってきたと感じますか?

戸田恵子さん(以下敬称略): 私は自分では子どもを育てていないので、直接体感する機会は少ないのですが、変わったというよりもむしろ変わらないなと感じることがあります。アンパンマンを務める中で、実は、やなせたかし先生が2013年にお亡くなりになったときは、「もうアンパンマンはできないかも」と思ったりもしましたし、それまでは大きな傘の中で守られていたことを痛感しました。もうまるで駄々っ子のように「(アンパンマン役は)やれない!」と思うようなこともあったんです。不思議ですよね、毎日会っていたわけではないのに。

──やなせ先生は、本当に大きな存在だったんですね。

戸田: 大きな支えだったというか……。でも「やれないかも」という気持ちを変えてくれたのが、子どもたちでした。私は2011年から東北でボランティア活動を行っていまして、2014年も仙台に伺ったのですが、集まった子どもたちは、やなせ先生がいようといまいと、本当にいつもと変わらず「アンパンマンだいすき!!!」と着ぐるみに飛び込んでくるんです。大人に何が起きていようと、私がどんなに悲しんでいようと、子どもたちが「アンパンマンが大好き」という気持ちに変わりはない。その「だいすき!!」と体いっぱいで表現する子どもたちの姿を見たときに、「やらなきゃいけないことなんだな」という、やらされているという感覚とは違う、使命を感じました。
 いつの時代も子どもには、先に向かう力がある。大人がしょげている場合ではないとそのときに強く思いました。子どもって、パワーがみなぎっていて、伸びしろしかないでしょう?