発表会は緊張を練習できる場

―― コンクールや発表会などのイベントが迫ってくると、普段にも増して「練習しなさい!」と言ってしまいます。

 よく分かります!うまくいったらお子さん自身がうれしくなるだろうし、失敗したら悲しむだろうし、と思うあまりに、つい言ってしまいますよね。親としての責任感やプレッシャーもあるかもしれません。発表会を、成功体験を積む場として捉えるのではなく、緊張を練習できる場と考えてみるのはどうでしょうか?小さな目標とストレス・緊張・達成感のループがないと、人は飽きて続けられないと思います。そう考えると、コンクールや発表会は、目標設定としてとてもいいのではないかなと思います。十分な練習をせずに本番に臨んで、本人が満足するような結果を残せなかったとしたら、なぜうまくいかなかったかを考えさせるのもまた、大切なことです

 頑張って納得がいく演奏ができたら、また頑張ろうと思うでしょう。そうした自分での気づきが、お子さん自身をぐっと成長させてくれるはずです。

楽しいことがひとつでもあると幸せ

―― ピアノをいつまで習い続けるかも、中学受験を考えると悩ましいです。

 ピアノ継続の壁には、三段階あって、最初は小学3年生頃、次の壁は小学校高学年、そして最後に中学入学後だと言われています。どの壁も、塾や英語、部活動など、他にやらなければならないことが出てくる頃ですよね。

 やらなければならないことが増えてくると、練習が必要なピアノのレッスンを週に一回でも継続するのは難しいかと思います。それでも、たとえ月に一回でも続けるのは大きい。こんなことを言ったらピアノの先生からは怒られてしまうかもしれませんが(笑)、私は練習をできなかったとしても、レッスンに行ってしまっていいと思います。そんなとき先生は、生徒さんと音楽の話をしたり、曲の分析や鑑賞をしたり、作曲をしたり……。私は、指導者側にも、子どもたちも親も忙しい今の時代にあわせた工夫や応用力が必要になってきていると考えています。

 楽しいと思えることが一つでもあるって、幸せなことですよね。私自身もそうだったのですが、宿題の曲を練習するのは気が重いことです。私は練習が終わった後に、自由にホップスを弾いたり、曲をつくったりする時間が喜びでした。

 もしお子さんが宿題の曲を練習せずに、好きな曲を好きなように弾いていても、そのことが20年後、30年後にどうつながるかは誰にも分かりません。お子さんが熱心に練習をしていなかったとしても、弾いているのが宿題の曲じゃなくとも、お子さんが何かを自発的に弾いているのなら、それだけでも実は素晴らしいことなのです。親御さんには、音楽に出合わせてあげられたことを誇りに思い、そのうえで、ちょっとしたお子さんの成長や工夫に気づいてあげて、めいっぱいほめて、楽しませてあげることを、いつも忘れずにいてもらえたらと思います。

取材・文/代 麻理子 轟さんの写真/武藤 章



轟 千尋
作曲家
轟 千尋 東京芸術大学作曲科卒業、同大学院修士課程修了。在学中より映画音楽等製作。現在、管弦楽及び室内楽のための作編曲、また演奏家への楽曲提供や、子どものための作品集の出版を多数手がけている。主な作品に「星降る町の小さな風景」-ピアノのための28の小品ー、「きらきらピアノ」シリーズ(全音楽譜出版社)、ピアノを通じて考える力、表現力を育てるための絵本『わたし、ピアノすきかも』(音楽之友社)ほか。2児の母。